要約
DNAマーカーPPO18PlusはPpo-A1機能欠失型(Ppo-A1i)の判別を可能とし、コムギの育種過程においてPPO活性が低くめん色がくすみにくい品種の育成に貢献する。
- キーワード : コムギ、めん色、ポリフェノールオキシダーゼ、PPO、DNAマーカー
- 担当 : 東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・畑作園芸品種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
めん色のくすみにくさは重要な育種目標の一つである。その主要因は食品の変色に関与する酵素ポリフェノールオキシダーゼ(Polyphenol oxidase : PPO)であることが知られており、PPO活性が低い品種の開発が求められている。コムギ粒のPPO活性への寄与率が最も高い遺伝子Ppo-A1には通常型(Ppo-A1a)に対し、低活性型(Ppo-A1b)が存在する。PPO活性低減のため、その導入はDNAマーカーPPO18が用いられてきた。さらに近年、機能欠失型(Ppo-A1i)がめん色のくすみの程度を小さくすることが海外で報告されており、国内の品種育成においても有用な遺伝子型であると考えられる。そこで、Ppo-A1iにおける遺伝子の構造変異を明らかにし、育種に利用可能なDNAマーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- 機能欠失型(Ppo-A1i)は遺伝子の第2イントロンに約3 kbの挿入配列が存在する(図1)。
- 新たに開発した共優性マーカーPPO18Plusは、挿入配列を利用して設計したリバースプライマーPPO18R-3(表1)とフォワードプライマーPPO18F、リバースプライマーPPO18RのマルチプレックスPCRにより、通常型(Ppo-A1a) と低活性型(Ppo-A1b)および機能欠失型(Ppo-A1i)、をそれぞれ685 bpと876 bp、536 bpのサイズ差で判定することができる(図1、表2、図2)。
- デュラムコムギ(AABBゲノム)で報告されている機能欠失型(Ppo-A1g)はPpo-A1iと同一であり、Ppo-A1iはデュラムコムギから普通系コムギ(AABBDDゲノム)へ導入されたものと判断される(データ省略)。
成果の活用面・留意点
- Ppo-A1iは既報のDNAマーカーPPO18を用いた場合に増幅産物が得られないが、開発されたDNAマーカーPPO18PlusはPpo-A1遺伝子がヘテロ型の場合でも判別可能な共優性マーカーであるため、連続戻し交配を行う際により効率的に選抜することができる。
- 機能欠失型(Ppo-A1i)の交配母本として、国内遺伝資源では「農林27号」および「ナンブコムギ」を利用することができる。海外遺伝資源としては「07OR1074」が利用可能であり、USDA-ARSにおいて配付されている。
- コムギ粒におけるPPO活性への寄与率はPpo-A1が8割、Ppo-D1が2割程度であることが報告されており、めん色に関与するPPOの影響を完全に排除するためにはさらにPpo-D1機能欠失型の導入が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 中丸観子、加藤啓太、池永幸子、中村俊樹
- 発表論文等 : Nakamaru et al. (2023) Crop Science.63(5):2844-2855