除染後農地への牛ふん堆肥施用による畑作物の生産性向上と放射性セシウムの移行低減

要約

除染後農地へ牛ふん堆肥を施用することで、土壌の肥沃度が向上し作物の地上部生育と子実収量が増加する傾向にある。さらに、土壌中の交換性カリウム含量が高まるとともに、交換性放射性セシウムの割合が低下することで、土壌から作物体可食部への放射性セシウムの移行係数が低下する。

  • キーワード : 除染後農地、牛ふん堆肥、生産性、放射性セシウム、カリウム
  • 担当 : 東北農業研究センター・農業放射線研究センター・早期営農再開グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原発事故により放射性物質の影響を受けた除染後農地では、放射性セシウム (Cs) が土壌に残存していることに加え、表土剥ぎ取りにより土壌肥沃度が大幅に低下している。営農再開時には、作物の生産性を高めつつ放射性Csの移行を低減する取り組みが重要である。
そこで本研究では、作物の生産性と安全性の両立に向け、福島県浜通り地域の除染後農地において牛ふん堆肥を施用し、作物生育及び放射性Cs移行低減に対する影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 牛ふん堆肥を施用することで、土壌中のpHが高まるとともに、可給態リン酸、交換性カリウム、交換性カルシウム、交換性マグネシウム、陽イオン交換容量、腐植含量等が高まる (データ略)。
  • 除染後農地へ牛ふん堆肥を2 kg m-2施用 (表1)することで、ダイズおよびソバの子実重は高まる傾向にある(図1左、中)。また、ポット試験において牛ふん堆肥を1 kg m-2施用することでコマツナの茎葉乾物重は高まる(図1右)。
  • 牛ふん堆肥を施用することで、土壌中の交換性カリウム含量が高まり、土壌から作物体への放射性Csの移行係数は低下する(図2)。
  • 牛ふん堆肥施用区は硫酸カリウム肥料施用区と比較して、土壌中の交換性カリウム含量が同程度であっても作物への放射性Csの移行係数と土壌中の全Csに対する交換性Csの割合が低い傾向にある(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果に用いた牛ふん堆肥の主要な成分の含有率は、現物あたりN 1.5%、P2O5 2.4%、K2O 2.2%である。
  • 本成果は、東京電力福島第一原発事故に伴う表土剥ぎ取りを実施した除染後農地における営農再開等に活用できる。2024年度に完成予定の浪江町の復興牧場(年間1万2千トンの堆肥を生産)で生産される牛ふん堆肥等の活用が想定される。
  • 牛ふん堆肥やカリ肥料施用量の決定には、土壌中の交換性カリウム含量や放射性Cs含量等を考慮する必要がある。

具体的データ

表1 圃場試験とポット試験の設計,図1 ダイズ・ソバの子実重およびコマツナの茎葉乾物重,図2 圃場試験 (A、B) およびポット試験 (C) における土壌から作物体可食部への放射性Cs移行係数 (棒グラフ、第1軸) と栽培後の土壌中の交換性カリウム含量 (丸プロット、第2軸),図3 ポット試験における栽培後の土壌中の交換性カリウムと土壌からコマツナへのCsの移行係数および土壌中の交換性Csの割合との関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(食料生産地域再生のための先端技術展開事業:原発事故からの復興のための放射性物質対策に関する実証研究)、農林水産省(農林水産分野の先端技術展開事業:特定復興再生拠点区域等の円滑な営農再開に向けた技術実証)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 久保堅司、鈴木政崇(北海道大)、八戸真弓、佐藤孝(秋田県大)、塚田祥文(福島大)、山口紀子、渡部敏裕(北海道大)、丸山隼人(北海道大)、信濃卓郎(北海道大)
  • 発表論文等 : Suzuki M. et al. (2024) Sci. Total Environ. 908:167939