要約
2023年、2024年は、いずれも記録的猛暑であったが、両年の東北地域の一等米比率は、20ポイント以上の大きな差がある。8-9月の気象の特徴を比べると、東北地域の2024年は、2023年よりも高温登熟障害リスク指標がかなり小さく、一等米比率の大幅な改善に寄与したとみられる。
- キーワード : 一等米比率、水稲、高温障害、猛暑、白未熟粒
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・ICT活用技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
気象庁によると2023年と2024年は、両年とも6-8月の全国の平均気温が平年値+1.76°Cの猛暑である。しかし東北地方の一等米比率は、2023年に66.9%と大きく下がったが、2024年は、直前の2018-2022年の平均値(92.3%)と同水準(91.0%)に改善している。そこで、東北地域を対象に、水稲の生育、品質に大きくかかわる8月から9月について両年の気象を比較する。
成果の内容・特徴
- 夏の日本の気候に大きく影響する亜熱帯ジェット気流(200hPa、上空12,000m付近)と地表面に近い大気下層(ここでは850hPa、約1,500m)の温度の分布によると、2023年には亜熱帯ジェットが北日本付近で北偏する形で蛇行し、南から暖かい空気が入り北日本に大きな温度の正偏差をもたらしたことを示唆している(図1左)が、2024年には蛇行は見られず、北日本の下層気温は正偏差ながら小さい(図1右)。2023年8、9月の亜熱帯ジェットの北偏による北日本の高温は、気象庁による同年6-8月を対象とする報告とも一致する。
- 海面水温の分布では、2023年には北日本近海で高い偏差が見られる(図2左)のに対して、2024年には高い偏差域が北太平洋中部へと移っている(図2右)。先行研究(Sato et al. 2024)でも、2023年夏には近海の高い水温の影響に加えて、三陸沖に生じた海洋熱波によって下層雲の生成が減少し地表面に達する日射が増加することで北日本の高温を強化したと指摘している。
※海洋熱波:海水温が過去数十年と比較して顕著に高い状態が数日以上持続する現象
- 地上の観測に基づく値においても、2023年の東北地域の日照時間が多い(図3左上)のに対して、2024年は平年同等かそれ以下(図3右上)であり、2023年は2.の日射増加の知見と整合し、日中の日射が高温をもたらしたことを示唆する。平均気温でも2023年には北日本で平年差+3°Cを超える顕著な高温がみられる(図3左下)一方、2024年は広い範囲で平年差+2°C超程度を示す(図3右下)。両年とも全国的な高温とされるが、その地域性は大きく異なる。
- 東北6県の高温登熟障害リスク指標であるヒートドース(HD_m26)の推移を調べると、2023年には全ての県で出穂期が集中する7月下旬から8月中旬までヒートドースが20を大きく超える状態が継続しており(図4左)一等米比率の低下と符合する。一方、2024年には宮城、山形、福島の3県でヒートドースが20を超える時期もあったが、そのピークは2023年より小さくまた出穂期ともずれており(図4中)、これらの県の一等米比率も2022年以前の5年間と同程度である。
- 2023年および2024年の8-9月の気象の詳細な比較により、東北地方においては、2024年の高温によるリスクが2023年よりも低かったことが一等米比率の改善に寄与したとみられる。ただし、2024年の一等米比率の改善には、品種選択、作期の調整などの営農上の対応による影響も含まれている可能性がある。
成果の活用面・留意点
- 各県の一等米比率は、2023年(2024年3月31日時点)、2024年(2024年10月31日時点)の速報値による。
- 日々のヒートドース(HD_m26)は、水田面積率の高い地域から抽出したアメダス地点(図4右)ごとに20日間の日平均気温から26°Cを超える積算値を算出し、県ごとに平均している。なお、ヒートドースは、出穂後20日間で20を超えると一等米比率が2割程度下がるとされている(西森2020)。
- 本成果では、8、9月を平均して現れた気象により考察している。短時間の高温、乾燥につながる現象(例として、フェーン現象等)は考慮していない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 大久保さゆり
- 発表論文等 : Okubo S.(2025)Geogr. rep. Tokyo Metrop. Univ. 60:9-16