要約
福島県の中通り・浜通りを対象として水稲の作付期間中に灌漑水から供給されるカリウム量を推定したマップである。灌漑水からのカリウム供給量は幅があるものの、福島県のカリウム施肥基準量の半量以上を占める地域もある。本成果は地域ごとの最適なカリウム施肥量の設計に貢献できる
- キーワード : カリウム、灌漑水、水田、放射性セシウム
- 担当 : 東北農業研究センター・農業放射線研究センター・早期営農再開グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する放射性セシウムの土壌から作物への移行は、カリウムを上乗せ施肥することで抑制されており、この対策は現在でも一部の地域で継続されている。カリウム施肥量の指針は圃場におけるカリウム収支に基づいて設計されることが多く、水の出入りに伴うカリウムの流出入も収支に含まれる。カリウムは陸水の主要イオンであり、灌漑水が多量に供給される水田では、灌漑水からも一定量のカリウムが供給されると考えられる。しかしながら、その供給量は地域一律ではないと予想され、地域ごとの最適な施肥設計にはカリウム供給量の空間情報が必要となる。そこで本研究では、放射性セシウム移行抑制対策としてカリウム管理の重要性が高い福島県中通り・浜通り(図1)を対象として、水稲の作付期間中に灌漑水から供給されるカリウム量のマップ化を図る。
成果の内容・特徴
- 灌漑水によるカリウム供給量は灌漑水のカリウム濃度に灌漑水量を乗じて求める(図2)。灌漑水のカリウム濃度には明確な地域差が認められ、福島県中通りや浜通り南部のいわき市付近で高い(図3a)。その要因として自然条件(温泉・石炭の分布)や人為負荷(河川への農業・生活排水等の流入)が示唆される。灌漑水の供給量は阿武隈高地で少ない傾向にあるが、その他の地域はモザイク状に分布している(図3b)。
- 灌漑水からのカリウム供給量は中通り北部の福島市(図4a)や浜通り南部のいわき市(図4b)で多く、福島県の慣行施肥量(60~100kg-K2O/ha)の半量以上(≧30kg-K2O/ha)が灌漑水より供給されると推定される。しかし、阿武隈高地や東京電力福島第一原子力発電所のある浜通りの相双地域(図4c)では、供給量が20kg-K2O/ha以下と少ない。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、放射性セシウム移行抑制のために土壌中のカリウム含量の管理が重要な原発事故被災地域において、カリウム収支に基づく施肥量設計に貢献できる。
- 本マップの作成方法については、福島県以外の地域にも適用可能と考えられる。
- 用水システムの情報が得られなかった地域の灌漑水のカリウム濃度は、河川を水源と仮定したモデル式を作成して計算しており、推定精度が劣る可能性があることに留意が必要である。
- 灌漑水量は一日の減水深を用いて算定しているので、かけ流し灌漑や田越し灌漑などで一筆に必要量以上に灌漑される圃場では、供給量が異なる可能性があることに留意が必要である。
- 収支に基づく施肥量設計には水田からのカリウム流出量の情報も必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(食料生産地域再生のための先端技術展開事業:原発事故からの復興のための放射性物質対策に関する実証研究、農林水産分野の先端技術展開事業:特定復興再生拠点区域等の円滑な営農再開に向けた技術実証)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2018~2023年度
- 研究担当者 : 錦織達啓、久保田富次郎、藤村恵人
- 発表論文等 : Nishikiori T. et al. (2024) Agric. Water Manag. 295:108738