要約
水田転換畑で栽培されているダイズについて、複数の元素吸収量から収量に至るまでの過程をパス解析で説明する。その結果、開花期ではマグネシウムとカリウム、子実肥大期では窒素とカリウムの吸収量を向上させることで、水田転換畑のダイズ収量が向上する可能性がある。
- キーワード : ダイズ、水田転換畑、元素吸収量、パス解析
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・水田輪作グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ダイズの元素吸収量は収量と密接に関わっており、この関係を仔細に解析することは施肥技術の開発に資するため、これまで多くの研究がなされている。単一の元素について、収穫までの元素吸収量のパターンは、これまで多くの研究で示されている。複数の元素についても同様に、それぞれの元素の比とダイズの収量の関係は解析されている。しかし、吸収量を直接用いて、収穫までに吸収される複数の元素の関係を示した報告はこれまでない。複数の変数間の因果関係を統合的に示すパス解析は、こうした収量に至るまでの過程を明示的に示すのに適した解析である。そこで、東北研大仙研究拠点で行われている長期連用試験のうち、2006年から2022年までに行われたダイズ作のデータを用いて、複数の元素吸収量から収量までの過程をパス解析で示す。
成果の内容・特徴
- パス解析に必要な説明変数は階層的重回帰分析を用いてパス解析に必要な説明変数を選択する。収量を目的変数としたモデルの説明変数は、子実肥大期の窒素とカリウム吸収量、年次、および堆肥施用の4つである(表1)。子実肥大期の窒素吸収量を目的変数としたモデルの説明変数は、開花期の窒素、カリウム、およびマグネシウム吸収量、年次、および転換年数の5つである(表2)。子実肥大期のカリウム吸収量を目的変数としたモデルの説明変数は、開花期のカリウムとマグネシウム吸収量、転換年数、堆肥施用の4つである(表1)。
- パス解析の結果、収量に対して、子実肥大期の窒素およびカリウム吸収量のパス係数は正、堆肥施用と年次は負である(図1)。つまり、子実肥大期では窒素およびカリウムの吸収量を向上させるとダイズが増収することが期待される。
- 子実肥大期の窒素吸収量に対して、開花期のマグネシウム吸収量のパス係数は正、転換年数は負である(図1)。子実肥大期のカリウム吸収量に対して、開花期のカリウム吸収量のパス係数は正、転換年数は負である(図1)。また、開花期のマグネシウムとカリウム吸収量から収量への間接効果を検証した結果、両吸収量とも有意な正のパス係数が認められる(図2)。よって、開花期ではマグネシウムとカリウムの吸収量を向上させるとダイズが増収することが期待される。
成果の活用面・留意点
- 東北研大仙研究拠点内で実施されているイネとダイズの輪作をしている長期連用試験の2圃場(細粒質灰色低地土)から、2006年から2022年の「リュウホウ(n=118)」の精粒重(≧5.5mm)、開花期および子実肥大期における地上部の乾物重と窒素、リン、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム吸収量が基礎データである(表2)。ダイズの作付回数は3回もしくは1回を1セットとしている場合の2パターンある。本データセットには各圃場の栽培年次、転換年数、堆肥施用の有無、および窒素施肥の有無を追加している。圃場は、1990年から家畜ふん堆肥(畜種は牛および鶏)を1t/10a施用している圃場と、1982年から稲わら堆肥を2t/10a施用している圃場の2つである。
- 各試験区は同一圃場の中で設定されており、肥培管理以外の管理は統一的に行われている。試験区の基肥は、窒素が0~9kg/10a、リンとカリウムは8kg/10aで播種日の前日に施用している。石灰質肥料は施用しておらず、堆肥の施用は播種日の1週間前に行っている。栽植密度は7.4株/m2で、一株あたり2本立てである。
- 本研究では、地上部乾物重のみのモデルと元素吸収量のみのモデルの精度を事前に比較し、後者がより精度が高いことを検証している。また、ダイズへの堆肥の施用効果は種類に関わらず等しいと考え、家畜ふん堆肥と稲わら堆肥を区別せずに解析している。
- 本研究はダイズ収量に関わる元素についての基礎的知見となり、今後同様のデータに対する解析を行う際の指針の1つとして役立てられる。本研究のデータは秋田県大仙市にある東北研大仙研究拠点のみから収集しており、他地域でのさらなる検証が求められる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2024年度
- 研究担当者 : 髙本慧、戸上和樹、内田智子、前川富也、髙橋智紀、浪川茉莉、西田瑞彦(東北大)
- 発表論文等 : Takamoto A. et al. (2025) Soil Sci. Plant Nutr. 71:574-580