要約
関数データ解析手法(FDA)を用いることで、生産者が管理する多筆圃場における作物収量の圃場間変動が、人工衛星画像を用いて把握した時系列生育データから推論できる。
- キーワード : 生産者圃場、収量、人工衛星画像、植生指数
- 担当 : 東北農業研究センター・農業放射線研究センター・早期営農再開グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年、農業分野における人工衛星画像の利用が注目を集めている。光学センサーを搭載した人工衛星によって撮影された画像からは、作物生育と関係がある植生指数を算出することができるため、広域に分散して立地する多筆圃場であっても省力的な情報収集が行える可能性がある。一方で、人工衛星画像を用いた研究は国や州といったマクロな範囲での作物種の分類や収量予測を行ったものが多く、生産者圃場のような地域的なスケールを対象としたものは見当たらない。生産者にとって有益な人工衛星画像の利用方法を検討するためには、生産者が管理している多筆圃場を対象に、作物生産性と人工衛星画像および植生指数との関係性の評価を行う必要がある。
そこで、岩手県北上市の生産者が管理する多筆コムギ圃場を対象に、収量コンバインを用いて収集された収量データと人工衛星(Sentinel-2)画像を用いて把握した時系列生育データとの関係性を関数データ解析(Functional Data Analysis : FDA)の枠組みに基づいて解析することで、時系列人工衛星画像が作物(ここではコムギ)の生産性の圃場間変動評価に役立つことを示す。
成果の内容・特徴
- FDAは、時間的に変化する観測値が複数ある場合に、それらを関数化して得られる新たな変数を用いて関数の性質を活かしながら多変量解析を行うことができるため、作物生育の時間的な変化の解析に適している。ここでは、FDAを、収量コンバインを用いて収集された収量データと人工衛星(Sentinel-2)画像を用いて把握した時系列生育データとの関係性の解釈に用いる。
- 収量データとして、2023年にコムギ生産者圃場76筆を対象として収量コンバインで収集したデータ(17g/m2~361g/m2)を用いる(図1のうち、外れ値となった上位2点を除く)。
- 衛星画像データには、対象圃場を写したSentinel-2画像の赤バンドと近赤外バンドから算出した正規化植生指数(NDVI : Normalized Difference Vegetation Index)を用いる。この推移は、各撮影日ごとにノイズを含むため、前処理(FDAにおける基底関数展開)として関数化が必要である(ここではB-スプライン曲線を選択、図2)。
- 収量を目的変数、播種日と関数化NDVIを説明変数としたFDAにおける関数重回帰分析により、収量の圃場間変動が説明でき(決定係数R2=0.39)、収量の圃場間変動と関数化NDVIとの関係性を規定する有意な回帰係数関数が得られる(図3、p<0.001)。なお、播種日は目的変数と説明変数の両方に影響を与える交絡因子と考えられ、説明変数に加えることで調整を行っている。
- 関数化NDVIの回帰係数関数の推移からは、NDVIによって表されるコムギ生育量が収量の圃場間変動に対して正の影響を持つ期間(回帰係数関数の値が0以上の期間)と負の影響を持つ期間(回帰係数関数の値が0以下の期間)が存在すると解釈できる(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本成果におけるNDVIを用いた生育の評価は間接的な推論であり、今後は、植被率、葉面積指数、バイオマス量といった生態学的なパラメータを踏まえた評価を行うことで、生育や収量の圃場内変動を引き起こした現象の具体的な考察や、広域の圃場を対象とした生産阻害要因の把握に展開できる可能性がある。
- 関数化に使用できる曲線は複数あるが、本成果ではFDAにおいて最も一般的と思われるB-スプライン曲線を用いた。
- 本成果は2023年単年度の結果を用いて得られた成果であり、複数年度のデータを蓄積して解析することで、より頑健な生産性評価手法が開発できる。
- 本成果と同様の解析は、他の作物にも適用できる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(スマート農業実証プロジェクト : スマート農業産地形成実証)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 山本修平、久保堅司、藤村恵人、宮路広武
- 発表論文等 : Yamamoto et al. (2026) JARQ. 60:147-156