飼料用セイヨウアブラナと飼料イネを併用した繁殖牛の冬季放牧技術

要約

飼料用セイヨウアブラナは冬季でも枯れることなく、また蛋白質成分が高いため、繊維源の飼料イネとの併用により、補助飼料なしで維持期の繁殖牛を冬季間に放牧飼養することができる。この冬季放牧に要する繁殖牛1日1頭当たりの経費は、一般の預託料金と比べて約4割低い。

  • キーワード:肉用牛、冬季放牧、セイヨウアブラナ、飼料イネ
  • 担当:西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・地域営農グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肉用牛繁殖経営の収益性の向上や、中山間地域における水田や里山の活用方法として放牧が普及しつつある。しかし、そのほとんどは夏季中心の約半年間の放牧にとどまっており、冬季は舎飼飼養されるため、飼養頭数の増加や省力化、収益改善効果は限られる。そこで、飼料用セイヨウアブラナと飼料イネを組み合わせた冬季放牧技術を開発するとともに、その経済性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本冬季放牧技術は、飼料用セイヨウアブラナと、「つきすずか」など極短穂型飼料イネ専用品種を併用する。これらの飼料を無駄なく利用するため、電気牧柵を利用して可食範囲を制限しつつ繁殖牛の放牧飼養を行う(図1)。
  • 飼料用セイヨウアブラナは、9月半ばまでの播種により、関東以西では12月半ばまで750kg/10aの乾物生産量が確保できる(図2)。
  • 飼料用セイヨウアブラナは、CP(粗蛋白質)やNFC(非繊維性炭水化物)及びTDN(可消化養分総量)は高い反面、NDF(中性デタージェント繊維)は低い。このため、CPが低く、NDFの比較的高い飼料イネと併用することにより、繁殖牛の栄養要求量を満たすことが可能となる(表1)。
  • 本冬季放牧技術により、11月下旬から2月中旬まで約90日間、48aの水田(飼料用セイヨウアブラナ28a、飼料イネ20a)において、補助飼料なしで、維持期の繁殖牛4頭を飼養することができた(山口市K法人)。10a当たり牧養力は75日頭であり、イタリアンライグラスやライムギによる既存の牧養力(20~42日頭)を大きく上回る。なお、放牧期間中の平均体重は18.8kg増加した(データ略)。
  • 本冬季放牧による繁殖牛1日当たりの飼養経費は各飼料の栽培管理経費を含めて437円と試算され、一般の冬季預託料金と比べて、約4割低減される(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 春夏秋放牧を実施している肉用牛繁殖経営において、周年放牧を可能にする低コスト技術として活用が期待される。
  • 飼料用セイヨウアブラナには登録農薬がないため、病害虫の多発圃場での作付けを避け、雑草及び害虫の生育の弱まる涼しい時期に栽培する。
  • 飼料用セイヨウアブラナは、施肥量や生育ステージにより硝酸態窒素濃度が家畜の摂取基準値を超すことがあるため、土壌分析を行ったうえで適切な施肥を行い早期の放牧利用は控える必要がある。
  • 国内で一般的に流通しているアブラナ科作物はグルコシノレートなどの家畜に有害な物質を含有しており、飼料に適さないため、本技術では海外(ニュージーランド)で育成された飼料用品種「Spitfire」を利用した成果である。収量、栄養成分は北関東、中国地域4か所のデータに基づく。経済性については、K法人の実績を基に試算したものである。

具体的データ

図1 飼料用セイヨウアブラナ(左)と飼料イネ(右)を併用した冬季放牧技術(山口市),図2 飼料用セイヨウアブラナの12月の乾物生産量,表1 飼料用セイヨウアブラナ等の栄養成分(1月中旬)と繁殖牛の栄養充足率,表2 冬季放牧の経済性

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(経営体プロジェクト)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:千田雅之、小林英和、望月秀俊、菅野勉、佐藤正道(山口県農林総合セ)
  • 発表論文等: