ムギ類黒節病の発生助長要因とベイズ推定によるリスク評価

要約

瀬戸内海地域で発生するムギ類黒節病は、1月の最低気温が-4 °C以下になる日数の多さが多発要因として重要である。地域ごとに選抜された多発要因が全て発生した場合、本病の発生リスクは2.1~2.5倍に増加する。

  • キーワード:ムギ類、黒節病、一般化線形混合モデル、ベイズ推定
  • 担当:西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・生産環境・育種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国のムギ類産地で株全体の黄変や不稔、倒伏など深刻な被害をもたらしている黒節病は、冬期の低温条件で本病の発生が助長されることが知られているが、それ以外の発生助長要因、さらにそれら助長要因が発生した場合にどれだけ発生が増加するかについては明らかでない。そこで、本病の発生助長要因の選抜とリスク評価を行い、本病の的確な防除対策の構築に資する。

成果の内容・特徴

  • 西日本の主要な黒節病発生地である岡山県17年分(2002~2018年)および香川県17年分(2002~2018年)の病害虫防除所が公表している病害虫発生予察データと気象庁のアメダスデータを用いて一般化線形混合モデルにより発生助長要因をAIC(赤池情報量基準)を基準として選抜すると、岡山県における本病の発生に関連が強い要因として「1月の最低気温が-4 °C以下の日数(Y1)」、香川県においては「1月の最低気温が-4 °C以下の日数(Y1)」、「1月の平均気温が5 °C以上の日数(Y2)」および「3月の降水量1mm以上の日数」、2県のデータを合算した場合は「1月の最低気温が-4 °C以下の日数(Y1)」および「3月の降水量1mm以上の日数(Y3)」が選抜される(表1)。
  • 発生助長要因が確認された後の本病の発生確率の変動をベイズ推定で算出すると、岡山県における本病の平年の発生確率1.2%は、発生助長要因Y1の発生後、3.0%に上昇する。よって、Y1要因が発生した場合の本病の発生リスクは2.5倍に増加する(図1)。香川県における本病の平年の発生確率15.4%は、Y1、Y2、Y3の要因が全て発生した後、35.4%に上昇する。よって、要因が発生した場合の本病の発生リスクは2.3倍に増加する(図1)。2県合算データでは、本病の平年の発生確率8.1%は、発生助長要因Y1、Y3の要因が全て発生した後、17.4%に上昇する。よって、要因が発生した場合の本病の発生リスクは2.1倍に増加する(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 発病助長要因の出現が認められた場合、登録薬剤を適正に散布するなどの防除対策を行うことが重要である。
  • 従来の頻度主義による割合を計算する場合とベイズ推定の結果では、数値が若干異なる場合がある。事前確率にあたる発生確率が、条件の出現により確率が改定され、事後確率として導かれる点がベイズ推定の特徴である。
  • 都道府県の病害虫防除所など長期間の病害発生データが記録され、かつ年報として公表されているデータを活用することによって、黒節病以外の病害でも発病助長要因の選抜とベイズ推定によるリスク評価が可能と考えられる。
  • これまでの研究において、冬季の低温条件が植物の病原菌に対する感受性を高め、3月の止葉抽出期の降雨により茎葉への感染が助長されることなどが報告されており、本成果における発生助長要因Y1、Y3と一致する。

具体的データ

表1 一般化線形混合モデルによるムギ類黒節病の発生圃場割合に影響を与える要因の選抜,図1 ベイズ推定による各要因の発生と黒節病発生確率の関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:川口章
  • 発表論文等:Kawaguchi A. (2020) J. Gen. Plant Pathol. 86:193-198