西日本における周年親子放牧に適した夏季用永年生牧草種

要約

トールフェスクは、3月に入牧可能で、生産性が季節的に平衡である。バヒアグラスは高収量であり、暖地型牧草の中では越冬後の生育が早く、5月に入牧可能である。両草種の組み合わせが周年親子放牧体系における夏季用永年草地として最適である。

  • キーワード:永年草地、トールフェスク、肉用牛、バヒアグラス、放牧
  • 担当:西日本農業研究センター・周年放牧研究領域・周年放牧グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肉用牛繁殖システムへの周年親子放牧導入に向け、各地の気候条件に応じた草種選定を行う必要がある。冬季用の草種は夏季用の草種と比較して生産性が劣るため、夏季用の草地でより長期間の放牧を行うことができれば一定の面積でより多くの頭数を飼養することが可能となる。また、西日本では寒地型牧草の越夏性が問題となる一方、暖地型牧草の越冬性や入牧時期の遅延が問題となる。
そこで、本研究では、寒地型牧草の中で最も越夏性に優れるトールフェスク2品種(「Kyushu 15」および「ウシブエ」)および暖地型牧草4種(バーミューダグラス、ディジットグラス「プレミア」、バヒアグラス「ペンサコラ」、矮性ネピアグラス)を供試した栽培試験により、西日本における周年親子放牧に適した夏季用の永年牧草種の選定を行う。

成果の内容・特徴

  • トールフェスク2品種は年間乾物収量でバヒアグラスを下回る(表1)ものの、3月、4月に200g/m2 程度の乾物収量がある(図1)ことから、バヒアグラスより早期の放牧利用が可能である。また、生産性が季節的に平衡であり、放牧利用時の余剰草が低減できる。同草種のCP(粗タンパク質)およびTDN(可消化養分総量)の含有率は概ね高水準であり(表2)、養分要求量が比較的高い分娩前後の繁殖雌牛や育成牛に特に適する。品種「Kyushu 15」と「ウシブエ」の試験成績にはほとんど差が見られない(図1、表1、2)
  • バヒアグラスは年間乾物収量が最高であり(表1)、越冬後は他の暖地型牧草よりも生育が早く、5月に200g/m2 程度の乾物収量がある(図2)。同草種のCP 含有率は乾物重量あたり10~18%、TDN含有率は55~60%であり(表2)、栄養価に問題はない。したがって、トールフェスクとバヒアグラスそれぞれの単播草地を組み合わせることにより、3月から11月あるいは12月までの放牧が可能となり、周年親子放牧体系における夏季用永年草地として最適である。
  • 栽培試験では毎月全面刈りを行うため、トールフェスクに夏枯れが生じることがあるが(図1;2019年)、盛夏の利用を避けた放牧では夏枯れが生じない(別試験の結果)。

成果の活用面・留意点

  • 試験地は山陰平野部(島根県大田市)に位置しており、年平均気温は15.1°C、最寒月(2月)の日最低気温は1.6°C、最暖月(8月)の日最高気温は32.2°Cである。これらの値は山陽平野部、四国や九州北部の中山間部と同等であり、それらの地域において本成果が活用できる。
  • 栽培条件は次の通りである。播種量は3kg/10a、播種様式は条播(条間30cm)である。ただし、矮性ネピアグラスのみ苗移植(0.5m×1.0m間隔)を行っている。播種時期はトールフェスク2017年9月、暖地型牧草2016年5月である。基肥量は窒素、リン酸、カリそれぞれが5kg/10a、苦土石灰が100kg/10aである。追肥は刈り取りの毎回直後に行い、量は窒素、リン酸、カリそれぞれ2kg/10aである(毎回同量)。除草は適宜実施している。
  • 本研究のデータはあくまで栽培条件下での刈り取りで得られたものであり、放牧下での生産量あるいは飼料成分とは異なる可能性があることに留意する必要がある。
  • タンパク質の過剰摂取は繁殖雌牛の受胎率の低下を招くとされる。トールフェスクのCP含有率は8月以降20%DMを超える水準にあり、維持期の繁殖雌牛にとって過剰である。この時期の放牧利用に当たってはこのことに留意する必要がある。
  • トールフェスク品種「ウシブエ」の種子は市販されているが、同「Kyushu 15」の種子は未流通である。

具体的データ

表1 供試草種の年間乾物収量,表2 供試草種のCP(粗タンパク質)およびTDN(可消化養分総量)含有率,図1 トールフェスク2品種の月別乾物収量,図2 暖地型牧草4種の月別乾物収量

その他

  • 予算区分:農林水産省(先導プロジェクト、AIプロジェクト)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:堤道生、大谷一郎
  • 発表論文等: