ウイルス病に強く難裂莢性を備える温暖地向けだいず新品種「はれごころ」

要約

だいず品種「はれごころ」はダイズモザイクウイルス等の病害ウイルスに対する抵抗性と難裂莢性を備え、それらが原因の減収や種子品質の低下を抑制できる。栽培特性や豆腐加工適性の高さは「サチユタカ」に類似し、1割程度多収で種子の外観品質が高い。

  • キーワード : だいず、ウイルス病抵抗性、難裂莢性、多収、外観品質
  • 担当 : 西日本農業研究センター・中山間畑作園芸研究領域・園芸作栽培・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

国産大豆に対する需要は増大しており、「食料・農業・農村基本計画」(令和2年3月31日 閣議決定)においても大豆の生産量拡大と価格および品質の安定が必要と明示されている。
近畿中国四国地域の主要品種である「サチユタカ」は、耐倒伏性が高く多収で、豆腐の加工適性が高い等の優れた特性を有するが、ウイルス病による褐斑粒の発生が散見される状況にある。また、難裂莢性を備えていないため、刈り遅れた場合、裂莢による減収が起きる危険性が高い。これらの問題に対応するため、ウイルス病に強く、当該地域によく適合する栽培特性と難裂莢性および多収性を備え、かつ、豆腐等の加工適性に優れる品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「サチユタカ」を反復親とする連続戻し交配系統で、複数のウイルス病抵抗性と難裂莢性を備える「12ex13F3」(後の「四国28号」)を種子親、同じく「サチユタカ」を反復親とする連続戻し交配系統で「12ex13F3」とは異なるウイルス病抵抗性を備える「12ex14F3」(後の「四国29号」)を花粉親とする人工交配から育成された品種である。両親系統の開発も含め、ウイルス病抵抗性と難裂莢性の選抜はDNAマーカーと実際の形質調査の併用による。
  • 近畿中国四国地域の成熟期は6月播で"やや晩"、7月播で"中"で、「サチユタカ」と同じかやや晩生である。茎の長さや倒伏程度などは「サチユタカ」と同程度である。子実重は「サチユタカ」より1割程度かそれ以上多収である。百粒重は「サチユタカ」よりやや軽いが、裂皮が少なく子実の品質が高い(表1)。
  • ダイズモザイクウイルスのA、A2、B、C、DおよびEの各系統、ラッカセイわい化ウイルス、インゲンマメ南部モザイクウイルスに抵抗性である(表1、図1)。また、難裂莢性を備える(表1、図2)。
  • 粗蛋白質含有率は「サチユタカ」と比較するとやや低いものの"高"に分類され、実需者による加工適性試験で豆腐や納豆に"好適"と評価されている(表1、表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 大豆生産者、豆腐および納豆等の加工事業者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 岡山県等で奨励品種化が検討されており、近畿中国四国を中心とする西日本地域で200ha程度の普及を見込む。
  • その他 : ダイズシストセンチュウには感受性のため、同線虫害発生圃場での作付けは避ける。難裂莢性を備えるだいず品種「サチユタカA1号」と「はれごころ」の明確な相違点は、「はれごころ」がダイズモザイクウイルスA2、C、DおよびE系統、ラッカセイわい化ウイルス、インゲンマメ南部モザイクウイルスに対する抵抗性を備える点である。

具体的データ

表1 「はれごころ」の育成地における各種試験成績,図1 ウイルスを接種した株から採取した種子,図2 乾燥処理後の裂莢の状況,表2 「はれごころ」の豆腐加工適性試験成績

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2013~2020年度
  • 研究担当者 : 小松邦彦、髙田吉丈、佐山貴司、山下謙一郎、猿田正恭
  • 発表論文等 : 小松ら「はれごころ」品種登録出願公表第35273号(2021年9月16日)