農業用ドローンによる防除作業のための作業計画支援システム

要約

中山間地域などの分散した多数ほ場を対象に農業用ドローンによる効率的な防除作業計画の作成を支援するシステムである。作業効率向上のために最適なほ場間移動経路を探索し、各作業日の作業ほ場と移動経路を設定した作業条件や作業時間上限に基づき算出して、地図上に色分け表示する。

  • キーワード : 農業用ドローン、作業計画、移動経路探索、道路距離、降雨リスク
  • 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・地域営農グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

大規模経営体や作業受託組織において、広域に分散する多数ほ場を対象に作業を行う場合、移動などに時間を要して作業効率の低下を招いている。限られた作業期間内に作業を完了させるためには効率的な作業計画の作成が重要となる。また、近年農薬散布を中心に農業用ドローンの利用が拡大しているが、農業用ドローンを対象にした作業計画作成を支援するシステムはまだ提供されていない。そこで、本研究では農業用ドローンによる防除作業を対象に、作業計画として作業日ごとのほ場間移動経路と作業ほ場を提示できるシステムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、オープンソースの地理情報システムQGISのPythonプラグインとして開発している。図1の処理手順に従って、利用者が設定した1日の作業時間上限を考慮し、最適なほ場間移動経路で作業を組み立て、作業日、作業時間、作業ほ場及び移動経路が対応した形で作業計画を作成し、作業日ごとの作業ほ場とほ場間移動経路を地図上に色分け表示する(図2)。
  • ほ場間移動経路は、多スタート戦略(計算回数100回)を取り入れた局所探索法によって、道路網データに基づいて初期ルートとなる全ほ場の最短巡回経路を探索して、作業順番の決定に利用する。道路網データを準備できない場合には、道路による移動距離とかい離があるが、ほ場重心間の直線距離で代替できる。
  • 作業時間の算出では、農業用ドローンによる防除作業の現況に即して、ほ場内作業時間と移動時間だけではなく、機材の積込・積降時間及び電池交換・薬剤補給時間を反映する。移動時間の算出では、隣接ほ場との距離が100 m以内では飛行で移動し、100 m以上では軽トラック等に乗せて移動するとして計算する。ほ場内作業時間は作業者の熟練度が影響することから、非熟練者の場合は現地調査で得られた作業データに基づきほ場内作業時間を35 %加算する。
  • 作業時間の条件として1日の作業時間上限を設定するが、利用者の予定に合わせて作業期間内で半日作業可能又は終日作業不能の設定ができる。また期間中の降雨リスクを考慮することができ、この場合は過去の降水量データから日ごとに平均作業可能指数を算出して、1日の作業時間上限に乗じることで作業時間を制限する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 多くの小面積ほ場を管理する集落営農法人や作業受託を行う生産組織において、農業用ドローンによる効率的な防除作業計画の作成を支援でき、作業計画段階における時間削減も期待できる。
  • 本システムを利用するには、利用者が作業対象ほ場のポリゴンデータ、道路網データを準備する必要がある。ほ場ポリゴンデータは、農林水産省の筆ポリゴンデータ、ほ場周辺の道路網データはOpenStreetMapのデータを利用する。また降雨リスクを考慮する場合は、気象庁のアメダスの時間降水量データを利用する。
  • 本システムでは、対象とする作業ほ場数の制限はないが、ほ場数の増加に伴って移動経路の探索に要する時間も増加する。探索時間はほ場100枚では40秒程度であるが、さらに多くのほ場を対象とする場合、探索時間の短縮には地区ごとに分割するなどの対応が必要となる。
  • 熟練度の係数は、広島県東広島市での現地調査で得られた防除作業のほ場内移動時間の平均値、熟練者(作業経験3年)0.62 min/10a(法人A、38筆)、非熟練者(作業経験1年)0.82 min/10a(法人B、45筆)を参考に設定している。

具体的データ

図1 作業計画支援システムの処理手順,図2 日ごとの最適なほ場間移動経路と作業ほ場の表示例,図3 作業期間及び期間内の作業可否、降雨リスクの設定画面

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : Sun Wenli、髙橋英博、奥野林太郎
  • 発表論文等 :
    • 孫ら(2023)農業情報研究、32:66-75
    • 孫ら(2020)農作業研究、55:71-77
    • 奥野ら「農作業支援システム」特開2022-63967(2022年4月25日)