中国四国地域で発生するムギ類黒節病の発生予測モデル

要約

ムギ類黒節病の発生を予測するため、階層ベイズモデルに基づく発生予測モデルを構築した。このモデルは、平均正解率71.3%の精度で発生予測ができるため、今後、迅速な防除計画策定に活用が期待される。

  • キーワード : ムギ類、黒節病、階層ベイズモデル、発生予察データ、アメダスデータ
  • 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・生産環境・育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

我が国のムギ類産地で株全体の黄変や不稔、倒伏など深刻な被害をもたらしている黒節病はムギ類の主要病害の一つであり、農業生産現場で被害をもたらしているが、これまで発生予測技術がなく、予測に基づいた効率的、効果的な防除対策ができなかった。そこで、本病の過去の発生記録と気象データを活用し、階層ベイズモデルにより、本病の予測モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 西日本の主要な黒節病発生地である香川県29年分(1992~2020年)、岡山県19年分(2002~2020年)および山口県8年分(2013~2020年)の病害虫防除所が公表している病害虫発生予察データ(合計56データ)と気象庁のアメダスデータを用いて階層ベイズモデルを構築すると、当年5月に黒節病が発生する圃場割合Pを導く予測式P = 1/ {1 + exp[-(γ+γn - 5.179 + 1.656D + 0.144W )]}が得られる(D = 前年5月の本病の発生圃場数のオッズ、W = 1月の最低気温が-4 °C以下の日数、γ= -0.012(圃場ごとの違いを示す変量効果)、γn = 県ごとの違いを示す変量効果(γ1 = -0.021(香川県)、γ2 = 1.839(岡山県)、γ3 = 0.039(山口県))。
  • Receiver Operating Characteristic (ROC) 解析により、陽性と陰性を決める閾値を0.745にすると、The area under the ROC curve (AUC、ROC曲線で囲まれた部分の面積)は0.788となる(図1)。予測モデルの精度は表1に示す指標によって示されるが、本予測モデルは正解率=0.750、再現率=0.889、特異度=0.621、適合率=0.686、F値=0.774の精度で予測できる(表1、2)。
  • モデル構築に用いるデータを5つのデータセットに分け、4つのデータセットでモデル構築し、残り1つのデータセットで交差検証を行うと、予測モデルの平均正解率=0.713、平均再現率=0.593、平均特異度=0.796、平均適合率=0.720、平均F値=0.629の精度で予測できる(表3、4)。

成果の活用面・留意点

  • 前年5月の発生圃場のデータと当年1月の気象データが得られた後に本予測モデルを活用することで、当年4月~5月に農薬散布による防除を行う意思決定に資する。
  • 本予測モデルは香川県、岡山県、山口県の病害発生データを使って構築されているが、同じフレームワークを使って他県のデータで予測モデルを構築することが可能である。今後、各県の気象・栽培条件に合致した予測モデルが迅速に開発されることが見込まれるため、全国的なムギ類黒節病の防除計画策定への貢献が期待できる。
  • 本予測モデルの構築に使用したデータ収集は、調査は各県内の一般の生産圃場で行い、毎年5月の発病圃場割合を調査したものである。

具体的データ

図1 Receiver Operating Characteristic (ROC)解析によって得られた予測モデルの再現率と特異度の関係,表1 予測モデルの精度検証の指標,表2 ROC解析によるムギ類黒節病予測モデルの精度検証結果,表3 交差検証法によるムギ類黒節病予測モデルの精度検証結果

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2020年度
  • 研究担当者 : 川口章
  • 発表論文等 :
    • Kawaguchi A. (2022) J. Gen. Plant Pathol. 88:48-54
    • Kawaguchi A. (2020) J. Gen. Plant Pathol. 86:193-198