切土・盛土の情報に基づく中山間地域水田転換畑向け排水対策技術

要約

中山間地域の本暗渠無施工の水田転換畑において、圃場の切土・盛土の情報をもとに排水口の位置および補助暗渠の施工方法を決定する手法である。本手法により、畑作物の苗立ちおよび収量の向上のための効果的な排水対策を講じることが可能となる。

  • キーワード : 水田転換畑、中山間地域、排水対策、補助暗渠、収量
  • 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・地域営農グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

我が国の耕地面積の約4割は中山間地域に位置しており、国内の農地の生産性向上において同地域は極めて重要である。その一方で、同地域にはいまだ本暗渠が未施工で排水不良となりやすい圃場が多数残っている。これまでの研究で、中山間地域の水田転換畑の局所的な排水不良には圃場内の切土・盛土の分布が関わっており、特に盛土箇所で排水不良が発生しやすいことが示唆されている。本暗渠の施工はその解決策の一つであるが、土木工事が必要となり費用が掛かることから生産者にとって大きな負担となる。そこで本研究では、中山間地域の本暗渠無施工の圃場を対象に、圃場の切土・盛土の情報と補助暗渠を活用して圃場内の排水不良を改善する排水対策技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本排水対策技術は、圃場整備前と整備後の標高情報を基にした切土盛土の分布地図の作成、排水口の検証および新規設置、集水桝の掘削、集水用補助暗渠の施工、浅層補助暗渠の施工によって構成される。
  • 圃場整備前と整備後の標高情報から、過去と現在の地形の標高差分を示した切土盛土の分布地図を作成する(図1)。
  • 切土盛土の分布地図を用いて、盛土由来の箇所に十分な深さ(35cm以上)の排水口があるか検証を行う。十分な深さが無い場合や盛土側に無い場合には新規に排水口の設置を行う。設置した排水口に集水桝を掘削し、排水口を起点として集水用補助暗渠を放射状に施工する(図2)。さらに圃場全体の排水性を向上させるために、集水用補助暗渠より浅い位置に補助暗渠(浅層補助暗渠)を施工する。浅層補助暗渠は、排水不良が起こりやすい盛土箇所において密に施工する。また、圃場周辺からの流入水を防ぐために、流入が予想される箇所には遮水用の浅層補助暗渠を施工する。
  • 排水対策の施工によって降雨後の余剰水が圃場外に排出され、作土層の土壌の体積含水率が速やかに低下する。額縁明渠のみを施工した切土・盛土の分布が同様の隣接圃場(対照圃場)と比較して苗立ちが向上する(図3)。これにより、排水対策施工圃場でダイズが増収する(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の実施には、圃場整備前後の標高情報が必要であり、本成果は中山間地域の圃場整備済かつ本暗渠未施工の圃場が対象となる。
  • 圃場整備前後の標高は圃場整備計画図から把握が可能であり、これら計画図は農業生産組織や土地改良区等で保管されている場合がある。または、国土地理院により発行された基盤地図情報および空中写真を用いたSfM多視点ステレオ写真測量法を活用することで標高情報を入手できる可能性がある。詳しくは、清水、松森(2020)新近畿中国四国農業研究3:1-7を参照されたい。
  • 本試験の成果は、広島県の中山間地域の水田転換畑にて得られたものである。使用する補助暗渠は、施工する深さの土質に応じて選定する。砂質の場合は、排水機能の維持のためにもみ殻暗渠等の有材の補助暗渠が必要である。粘土質等の補助暗渠の空隙が維持されやすい条件では、無材の弾丸暗渠とすることもできる。
  • 排水口の水閘を閉じることで復田が可能である。無材の補助暗渠を使用した場合には復田後に再度施工を行う。もみ殻暗渠の場合には、3年程度は効果が持続すると考えられるが、土質や土壌水分条件に応じて別途検討する必要がある。

具体的データ

図1 切土盛土の分布地図の例,図2 補助暗渠施工の例。,図3 中山間向け排水対策施工によるダイズの苗立ち本数向上効果。,図4 中山間向け排水対策施工によるダイズの増収効果

その他