要約
ガラス容器で行う湛水条件下での培養試験は培養期間中にガスが発生することが多いため、定期的にガス抜きが必要で非常に煩雑である。本手法ではガラス容器の代わりにアルミ蒸着袋を使用することでガス抜きが省略可能で、慣行法と比べて手間と時間が大幅に削減できる。
- キーワード : 湛水培養、アルミ蒸着袋、可給態窒素、有機質資材、窒素無機化パターン
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・地域営農グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
土壌の可給態窒素や有機質資材等の窒素無機化パターン測定による作物に利用可能な窒素量の把握は、作物栽培上、特に化学肥料削減において有効である。水田を想定した湛水条件での試験は、通常ガラス容器に土壌や有機質資材等を加えた土壌、水を入れゴム栓で密栓し無酸素状態にし、インキュベータ内で定温培養する。無酸素状態で土壌中の有機物が分解されると容器中でメタン等のガスが発生し栓が外れるため、ゴム栓にコックを取り付けガス抜きを行う必要があり、非常に煩雑である。
土壌の可給態窒素測定については岐阜県が広口のガラス容器を用いて水面に流動パラフィンの膜を張ることにより無酸素状態を維持した上でガス抜きを省略する手法を提示しているが、土壌に有機質資材を添加した場合等、ガス発生量が多量になった場合の検証は行われていない。
そこで、本研究では酸素透過性の無いアルミ蒸着袋を容器として使用することにより、無酸素状態を維持しつつガス抜きが省略可能な培養方法を提示する。
成果の内容・特徴
- 本法は、通常ガラス容器とガス抜きコック付きゴム栓を用いて行われる湛水条件下での培養試験(以下、慣行法とする)をアルミ蒸着フィルム製のアルミ蒸着袋で行う方法であり、定期的にガス抜きが必要な慣行法に較べて、手間と時間の両方を大幅に削減できる。
- 本法の手順は以下の通りである。(1)チャック付きアルミ蒸着袋(容量300mL程度)に所定の量の土(風乾土10g程度)、有機質資材等の窒素無機化パターンを測定する場合は土壌に加え有機質資材等を添加し、イオン交換水(風乾土の10倍程度)を加え、可能な限り空気を抜いてチャックを閉じた後、チャックより上部で熱圧着する。(2)所定の温度(可給態窒素の場合30°C)に設定したインキュベータ内で所定の期間(可給態窒素の場合4週間)培養する。(3)熱圧着部切除後、添加水分量に対し2molkg-1になるよう塩化カリウムを添加後、チャックをして振盪・抽出する。(4)抽出液をろ紙で濾過した後、アンモニア態窒素を測定する。
- 本法による風乾土での可給態窒素測定結果は、慣行法とよく合致する(表1、図1)。
- 本法により有機質資材等の長期培養試験での窒素無機化パターンの把握が可能である(図2)。
成果の活用面・留意点
- 未風乾土を使用した場合、秤量時に粗大有機物の混入を防ぐ、振盪前に粘土の塊を崩すといった注意が必要で、その場合も合致しない土壌が存在するため、検討が必要である(データ略)。
- 通常、有機質資材を添加した場合でも袋の容量は300mL程度で十分である。なお、米ぬか20mg添加(500kg/10a相当)・30°C培養で袋は大きく膨らんだが、破裂には至らなかった。
- 振盪時にチャック部分からの液漏れが想定されるため、振盪前にもチャックより上部で熱圧着し、袋を立てて振盪することが望ましい。その場合、通常よりも振盪速度を速くする。本事例では慣行で120rpmのところアルミ蒸着袋では170rpmの設定で振盪機を動作させた。
- 抽出時の塩化カリウム添加により、液の体積は1.06倍になるものとして濃度を計算する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究の推進:有機農業推進のための深水管理による省力的な雑草抑制技術の開発)、農林水産省(地域戦略プロ、経営体プロ)
- 研究期間 : 2016~2022年度
- 研究担当者 : 石岡厳
- 発表論文等 : 石岡(2023)土肥誌、94:115-120