超高β-グルカン含量の二条裸麦新品種「サンサンファイバー」

要約

「サンサンファイバー」は、60%歩留精麦のβ-グルカン含量が約20%と極めて高い、アミロース欠失のもち性二条裸麦である。穀粒は充実が悪い"しわ粒"であるため収量性は劣るが、高付加価値大麦食材として、大麦粉などの新規利用による普及が期待できる。

  • キーワード : 裸麦、高β-グルカン、もち性、しわ粒
  • 担当 : 西日本農業研究センター・中山間畑作園芸研究領域・園芸作栽培・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

近年もち性大麦(もち麦)の需要が高まると同時に外国産もち麦の輸入が大幅に増えている。また健康機能性成分を多く含む外国産大麦が"スーパー大麦"と銘打った高付加価値商品として広く出回っており、機能性成分をより多く含む高付加価値大麦品種が求められている。そこで、国産もち麦の供給量を増やし自給率を回復するため、健康機能性食物繊維のβ-グルカン含量が極めて高い高付加価値のもち性裸麦品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「サンサンファイバー」は、閉花性の二条うるち性系統「四R系3740」を母、β-グルカン含量を高めるlys5.i遺伝子をもつアミロース欠失のもち性系統「関系n574」を父にして交配を行い、系統育種法により育成したもち性の二条裸麦である。
  • 60%歩留精麦のβ-グルカン含量は、これまでの品種で最も高い「ワキシーファイバー」の約14%を超える世界最高水準の約20%である(図1)。
  • 穀粒はデンプン含量が低く充実が悪い"しわ粒"であるため、収量性が劣り、整粒歩合が低い(図2、表1)。
  • 播性程度はI(データ略)で、「ユメサキボシ」よりも出穂期が3日程度、成熟期は2日程度早い(表1)。
  • 「ユメサキボシ」と比べ稈長が7cm程度長いが、耐倒伏性は同程度である(表1)。穂長はやや短く、穂数は同程度~やや少ない(表1)。
  • オオムギ縞萎縮病・うどんこ病には"極強"で、赤かび病には"強"であるが、穂発芽性は"易"である(データ省略)。
  • アミロース欠失のもち性であり、β-グルカン含量が高いため、穀粒硬度が高く、60%歩留まり搗精時間が長く、砕粒率が低い(表1)。また"しわ粒"であるため、精麦白度が低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 福岡県内と北海道内の生産者が、既存のもち麦品種とは異なる新たな高付加価値の大麦原料として加工利用するために2024年産からの作付けを予定しており、他の産地や実需者も生産・利用を検討している。
  • "スーパー大麦"として流通している外国産大麦に対抗する原料としての普及も図る。
  • 栽培上の注意点として、穂発芽性が"易"なので適期収穫に努める。
  • 現在「サンサンファイバー」用の農産物検査基準はなく、契約栽培等で農産物検査を受けない場合には、収穫量を確保するため、選別篩目は1.8mmまたは1.85mmの篩目が望ましい。

具体的データ

図1 60%歩留精麦のβ-グルカン含量,図2 粒外観(左)および・断面(右)の写真,表1 主な生育・品質特性

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2010~2022年度
  • 研究担当者 : 杉田知彦、伊藤美環子、伴雄介、加藤啓太、野方洋一、阿部大吾、吉岡藤治、小前幸三、高橋飛鳥、柳澤貴司、長嶺敬
  • 発表論文等 : 伊藤ら「サンサンファイバー」品種登録出願公表第36490号(2023年2月21日)