要約
センサ出力値に影響する温度ドリフトによる誤差を補正することで、接触式変位センサにより植物の茎径等の微細な変位を連続計測でき、植物成長の環境応答解析が可能となる。
- キーワード : 果梗径計測、環境応答解析、環境制御、植物体センシング
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間畑作園芸研究領域・施設園芸グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
植物体の微細な環境応答に基づく精密な環境制御技術構築のため、植物体の水分ストレスの変化を瞬時に反映する茎(果梗)径などの変位モニタリングが接触式変位センサを用いて実施されている。一方、接触式変位センサでの計測の際に、計測対象物への固定に使用するセンサ支持具の熱膨張に起因する温度ドリフトが誤差となり、微細な植物体の伸縮を計測できない。そこで、接触式変位センサによる連続計測の際のセンサ支持具由来の温度ドリフトを補正することで、植物の果梗径の微細な変化を連続計測する。
成果の内容・特徴
- 人工気象器内で、5~30°Cの温度範囲内において、計測対象物なしの状態の接触式デジタル変位センサ出力値と温度を計測する。
- 1.の計測結果のうち気温(T)を独立変数、センサ生出力値(OS)を従属変数とした回帰式(式1-1)の回帰係数(温度依存係数(Ct))とすることで、気温による出力値への影響度を評価できる。
- 可変式のセンサ支持具を用いる場合、計測対象物を計測可能範囲内に置くために、支持具の長さが異なる状態での計測が想定される。センサ支持具の熱膨張が出力値に及ぼす影響度は支持具長により変わるため、支持具の長さを3段階設定して、各々の式1-1を算出する。
- 式1-1にT=20を代入して算出した任意基準温度(20°C)におけるセンサ出力値(OS20)を独立変数とし、Ctを従属変数とした回帰式(式1-2)の回帰係数(センサ出力補正係数(Cl))とすることで、センサ支持具の長さによるCtへの影響度を評価できる(図1)。
- 式1-3によりセンサ生出力値を任意基準温度におけるセンサ補正値(COS20)へと変換することで、20°C帯の平均出力値に対する温度ドリフトの影響が5°C帯で86%低減される(図2)。
- 式1-3により、例えば、接触式デジタル変位センサによりイチゴの果梗径の変位を連続計測できる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本技術はイチゴ以外の植物についても茎径等の計測に適用できる。微細な変位のモニタリングが可能となるため、植物体の環境応答を経時的に解析でき、精密な環境制御技術の開発に繋がる。
- 温度ドリフトの程度はセンサ支持具の長さや材質に影響されるため、使用する支持具についてそれぞれ補正式を作成する。
- 同一の支持具とセンサの組み合わせでは、補正式は一度作成すればよい。
- 任意基準温度は計測する温度範囲に合わせて任意に設定する。
- 本技術は、鉄製のジョイント金具で構成された支持具、接触式デジタル変位センサ((株)キーエンス、GT-H22L)および次作のプログラムを用いた計測により得られたものである。なお、器具はこれらに限定されない。
- 図3はイチゴ品種「紅ほっぺ」の果梗径の変化を5分間隔で連続計測し、Savitzky-Golay法で平滑化して得られたものである(n=1)。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2017~2022年度
- 研究担当者 : 山中良祐、矢野孝喜、吉越恆、川嶋浩樹、遠藤(飛川)みのり、和田光生(大阪公大)、古川一(大阪公大)、東條元昭(大阪公大)、平井規央(大阪公大)、北宅善昭(大阪公大)
- 発表論文等 :
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山中ら(2020)日本冷凍空調学会論文集、37:215-224
- Yamanaka R. et al. (2022) Trans. of the JSRAE 39:167-176