放牧牛の闘争行動を回避できる通路(シュート)

要約

水槽を誘引施設とした個体管理通路(シュート)の側面に前方斜め方向への専用出口を設置することで、多頭数の放牧でも各ウシが水を飲むためにスムーズにシュートへ出入することができ、ウシごとの個体確認や自動体重測定が容易となる。

  • キーワード : シュート、個体管理、体重測定、放牧牛、水槽
  • 担当 : 西日本農業研究センター・周年放牧研究領域・周年放牧グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

水槽を誘引施設として、その通路途中で放牧牛の体重測定を自動で行うシステムはヒトの介在を必要としない省力的な技術である。このシステムは通路末端が水槽であるため、水飲み後のウシは後退して通路を出なければならない構造となっている。そのため、シュート内に劣位のウシがいる場合、優位のウシが後ろからシュートに進入し、劣位のウシを背後から攻撃するリスクがある。特に多頭数の放牧地ではそのリスクは高まり、ウシの闘争行動の増加やアニマルウェルフェア上の問題を引き起こす可能性がある。そこで、本研究では、シュート内のウシが、他のウシからの攻撃を容易に逃れることができるように専用出口を備えたシュートを開発する。また、自動体重測定システムと組み合わせ、30頭以上の多頭数での放牧飼養を想定し、本シュートの有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 本シュートは、単管パイプで作成できる(図1)。構成として、第1通路、第2通路、水槽および個体管理・体重測定部を備える。第2通路は第1通路に対して45°傾いた斜め方向に設置し、図1中⑤の後端から水槽までの長さをウシの首の長さよりも長く設置する(図1)。
  • 本シュートの利用時、ウシは図1中⑦の入口から第1通路部に進入し水槽で水を飲むが(図1左)、飲水終了後、ウシは(1)第1通路から後退して通路を脱出、あるいは(2)第2通路から同⑧の出口方向に脱出、の2通りの選択が可能である。
  • 後方より優位のウシが水を飲むためにシュート内に進入しようとする場合、飲水を終えた前方のウシの多くは第2通路から脱出を行う。第2通路があることにより、ウシの出入がスムーズにでき、優位のウシからの攻撃を避けることや攻撃を受けてもダメージが生じる前に脱出することが可能となる。
  • 図1中⑤の後端から水槽までの長さをウシの首の長さよりも長く設置することにより、ウシが出口から進入しても水が飲めない。このことをウシは徐々に学習し、第2通路部は出口専用通路となることが本シュートの設置法の一つのポイントとなる。
  • 本シュートを自動体重測定システムと組み合わせることで、多頭数の放牧地でもウシの自動体重測定が可能となる。本シュートを32頭の放牧地に導入した事例においても、水飲み中のウシへの背後からの他のウシの攻撃は少なく、体重の自動測定が可能である(図2)。
  • 本シュート下部に設置した体重計にウシの4肢が乗らない、あるいは2頭のウシがシュート内に入るなどで、体重測定の異常値が発生する確率は11%以下であり、異常値については、直近数日間の測定値を大幅に値が異なるため、容易に判別可能である(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 多頭数の放牧飼養を行う事業者、地方公共団体・農協などの機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国。
  • その他 : 自動体重測定システムは喜田ら(2021)が開発したサージミヤワキ株式会社の製品を使用した。本シュートは丸くい8本、単管パイプ15m、自在クランプ26個で作成可能であり、作成コストは約35,000円である。本シュートと自動体重測定システムを合わせて導入する経費は約210万円である。30頭規模で7年間使用する場合、1頭あたりの年間コストは約1万円である。

具体的データ

図1 専用出口を設けたシュートとウシの利用について,図2 多頭数放牧の実証試験に用いたシュートと自動体重測定システム,図3 多頭数放牧(32頭)の実証試験における自動体重測定システムの実測値

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業技術の開発・実証・実装プロジェクト)
  • 研究期間 : 2023~2024年度
  • 研究担当者 : 胡日査、柿原秀俊、渡辺也恭、堤道生、平野清
  • 発表論文等 :
    • 胡日査ら(2025)日草誌、71:45-51
    • 胡日査ら、特願(2024年5月31日)