要約
PHILDは土壌伝染や接触伝染などの複数の伝染経路を持つトマトかいよう病の発生拡大を予測するだけでなく、導入予定の防除対策の効果を予測できるシミュレーションモデルである。農業生産者が防除対策を選択、実施する際の意思決定を支援する。
- キーワード : トマトかいよう病、シミュレーションモデル
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・生産環境・育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
植物に発生する病害は、ヒトや動物の伝染病と同じように、カビ、細菌、ウイルスなどの病原体により発生する。新型コロナウイルス感染症や季節性インフルエンザのようなヒトからヒトへ伝染するヒト感染症の場合、リスク管理の観点から、感染者数変動の予測は感染症数理モデルを活用して行われる。しかし複数の伝染経路がある植物病害においては、ヒトの感染症数理モデルを植物病害の発生拡大シミュレーションにそのまま適用することは困難であった。
そこで本研究では、土壌伝染や接触伝染などの複数の伝染経路を有するトマトかいよう病の発生拡大シミュレーションモデルとして、新しい数理モデル"PHLIDモデル"を開発する。
成果の内容・特徴
- 本モデルの基本構造およびパラメータを図1に示す。「一次伝染源となる病原体(P)」によって一次伝染が起り、「健全な植物(H)」に病原体が感染して「潜在感染した植物(L)」が発生し、「発病した植物(I)」となり、最終的に「枯死した植物(D)」へと推移する。その過程で、(I)で増殖した病原体が(H)に二次伝染する。さらに、植物病害の発生拡大防止として導入される防除対策を「感染制御因子(C)」と定義するとともに、一次および二次伝染をそれぞれ防止する効果を示すパラメータをモデルに加える。
- トマトかいよう病の発生拡大について、土壌伝染により一次伝染が起こり、接触伝染により二次伝染が起こるシナリオを想定した条件でシミュレーションを行うと、本病に対する防除対策を行わない場合には、感染開始から120日後までに発病して枯死する個体の割合が62%に達することが定量的に示される。実際のトマト栽培ほ場における本病の発生レベルと比較すると、発病確認から129日後における枯死した個体の割合の平均値が64%であったことから、本モデルのシミュレーション結果とよく一致する(図2)。
- この本病に対する防除対策の効果をシミュレーションにより評価すると、一次伝染防止対策として土壌消毒を行うことで、枯死する個体の割合を45%に下げる効果が示され、二次伝染防止対策として行う剪定ハサミの消毒を行うことで、枯死する個体の割合を8%まで下げる効果が示される。さらに、両方の対策を実施した場合は、枯死する個体の割合を4%まで下げる効果が示される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 伝染に関するパラメータは、現地圃場の調査および室内での病原細菌の接種試験等から得たものである。防除効果を示すパラメータは、個々の防除効果のリスク比を代入する。今回の方法を用いて圃場ごとの各パラメータ値を取得し、シミュレーションを行うことで、圃場ごとの防除対策の意思決定を支援できる。
- 本モデルは生育の途中から二次伝染防止対策を導入したときの防除効果もシミュレーションすることができる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 川口章、北林奨也、井上幸次(岡山県)、谷名光治(岡山県)
- 発表論文等 :
- Kawaguchi et al. (2023) Plants 12:2099
- Kawaguchi et al. (2022) Plants 11:2053
- 川口「感染拡大予測装置、感染拡大予測方法、およびプログラム」特開2024-029656(2024年3月6日)