要約
本技術は飽差の変化速度が大きい時に植物体の水ストレスが増大してイチゴ果梗径が収縮するという湿度環境応答に基づき、施設内の飽差環境から予測した水ストレス状態を指標とする加湿制御技術であり、一般的な閾値制御と比較して、水ストレス緩和に無効な過剰加湿を抑制できる。
- キーワード : イチゴ、環境応答解析、環境制御、湿度、ミスト
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間畑作園芸研究領域・施設園芸グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
施設園芸におけるイチゴ栽培では、日中の乾燥(水ストレス)を緩和する目的で、一定の乾燥条件で加湿する閾値制御が行われるが、ストレス緩和に無効な過剰加湿による病害発生や品質低下の弊害が課題である。そこで本研究では、植物体を直接測定することなく、水ストレス状態を環境条件から推定し、植物体の水ストレス緩和に必要十分な加湿制御方法を開発する。
成果の内容・特徴
- 植物体の水ストレスが強まると果梗径は収縮する。イチゴの果梗径変化は接触式デジタル変位センサで計測できる(図1A)。計測日の14時前、低下していた飽差(VPD;hPa)が増大傾向に切り替わると、果梗径の変化を表す相対果梗径変化速度(S;mm・mm・h-1)は増大傾向から低下傾向に切り替わる。この時、飽差の変化速度(VPD';hPa・min-1)の方がVPDよりもSの変わり始めをより早く捉えるため、VPDだけでなく、VPD'も水ストレス状態に影響を及ぼす(図1B)。
- SとVPDおよびVPD'の関係を明らかにすることで、水ストレス緩和に有効な加湿制御ができる(図2)。
- SはVPDとVPD'で重回帰することができ、(式1)が得られる。
S=-1.44×10-4×VPD-1.30×10-2×VPD'+2.39×10-3(式1)
VPDとVPD'の回帰係数がマイナスであることから、VPDとVPD'が大きいほどSは小さくなる(水ストレスが大きくなる)。また、回帰係数の絶対値の比較から、VPDよりもVPD'の方がS(水ストレス)に及ぼす影響が大きい。
- 本技術は(式1)にVPDとVPD'を代入して算出されたSがマイナスの時のみを、植物体の水ストレスが大きいと推定して加湿する(図3)。VPDを制御閾値として単一で用いる一般的な飽差制御では、設定した飽差に応じて図3の青太線枠内を加湿するが、本技術はSがマイナスとなる図3の赤色部分の条件のみ加湿するため、過剰な加湿を抑制できる。
- 本技術は果梗径の収縮を抑制でき、植物体の水ストレス軽減に有効である(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本結果は2019/11/10(n=4)、2020/4/15~16(n=4)、2024/3/1~3(n=3)に一季成り性イチゴ品種「恋みのり」の、2024/3/9~3/10(n=4)に一季成り性イチゴ品種「かおり野」の果梗径をそれぞれ5分間隔で連続計測して得られたものである。
- (式1)のVPDとVPD'の回帰係数および切片は品種により変動する可能性がある。
- より簡便な制御とするため、制御の度に(式1)でSを演算するのではなく、(式1)を用いてあらかじめ算出したVPDとVPD'を制御閾値として加湿する飽差制御技術(Differential-Vapor Pressure Deficit制御;D-VPD制御)とすることができる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 山中良祐、矢野孝喜、吉越恆、川嶋浩樹、遠藤みのり、和田光生(大阪公立大院農学研究科)、東條元昭(大阪公立大院農学研究科)
- 発表論文等 :
- 山中ら「植物体の水分ストレス制御装置及び植物体の水分ストレス制御方法」特開2022-122289(2022年8月22日)
- 山中、吉越(2022)職務作成プログラム「施設内飽差制御プログラム」、機構M-35
- Yamanaka R. et al. (2025) Hort. J. 94:73-80