要約
化学農薬を使用できない有機水稲の生産力向上と省力化のために、年間の刈払い頻度を3回程度にとどめ、天敵生物温存のための残存植生帯を設けることにより、水稲作関係の天敵生物の増強、害虫生物の抑制、生物多様性の向上、刈払い作業の省力化を可能とする技術である。
- キーワード : 生物多様性向上、天敵温存、害虫抑制、省力化、有機栽培、畦畔管理
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・生産環境・育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
中山間地の水稲有機栽培では、化学農薬に依存しない環境にやさしく持続的かつ、省力的な農業生産技術が強く求められている。そこで、本研究では、畦畔雑草の刈払い時期や刈払い方法を工夫することにより、刈払い管理の省力化、クモ類やカエル類などの天敵生物の温存効果、斑点米カメムシなどの害虫抑制効果を狙う管理技術を開発する。また、本技術導入による生物多様性の向上により、生産物の付加価値向上につながることも期待される。
成果の内容・特徴
- 本管理技術は、水田畦畔の年間の刈払い頻度や刈払い方法を工夫することで中山間地域が持つ豊かな生物多様性を活用する畦畔管理技術であり、残存植生帯を敷設することが特徴である。残存植生帯は幅10cm程度あればよく(図1)、これにより、アシナガクモ類、徘徊性クモ類、カエル類の天敵温存地として機能する。イネ科雑草が優占している場合は、残存植生帯の高さ20cm程度で植物体上部を刈飛ばすことで広葉雑草が温存され、イネ科雑草の優占を抑制し、かつ、斑点米カメムシの餌となるイネ科雑草の出穂を防ぐことができる。
- 刈払い時期はイネの出穂日を基準に設定する(図1)。1回目の刈払いは移植日から本田のイネ出穂日の10~14日前までの中間地点日に設定し、植物を全て刈払う全刈りを実施する。中間地点日はあくまで目安なので厳密でなくても構わない。農作業の都合などによる1週間から10日程度の前後のずれは許容範囲である。2回目の刈払いは本田のイネ出穂日の10~14日前に設定し、残存植生帯を内側に残す(図1)。3回目の刈払いは本田のイネ出穂日の10~14日後に実施し残存植生帯を外側に残す。
- 広島県神石高原町の実証圃で調査した結果、大型の天敵生物として機能するトノサマガエルの個体数が本技術の導入区で高く、9月のイネ出穂後に本田への斑点米カメムシの侵入が抑制されている(図2)。その他にも天敵としてはアシナガグモやコモリグモ等が確認できる。
- 広島県神石高原町において2021から2023年に、本技術を導入した3圃場と、未導入の3圃場(計6圃場)での比較試験において、調査した生物多様性の豊かさを示すShannon-Wienerの多様度指数(H')と、斑点米カメムシの嗜好性の高いイネ科草本の相対被度を図3に示す。導入圃場の刈払い頻度は年3回、未導入圃場は年5回とする。導入圃場では出穂期から収穫期までのイネ科草本の植被率が抑えられつつ、生物多様性が向上している。通常5~6回程度実施される畦畔の刈払いを3回にすることにより作業時間については、30~40%程度省力化される。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 有機栽培及び特別栽培の水稲生産者、普及・指導機関の職員。
- 普及予定地域・普及予定面積 : 近畿中国四国地域の中山間地域有機水稲圃場・100ha。
- その他 : 本技術は生物多様性が高いとされる中山間地域に向けた技術であり、林野等が周辺にない平地部や外来イネ科雑草が優占しているような環境では十分な効果が得られない場合がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究の推進:有機農業推進のための深水管理による省力的な雑草抑制技術の開発)
- 研究期間 : 2021~2025年度
- 研究担当者 : 楠本良延、北村登史雄、Wari David、伏見昭秀
- 発表論文等 :
- 楠本ら(2023)農村計画学会誌、42:25-28
- 楠本(2025)中国四国雑草研究会会報、17:8-15
- 楠本ら、特願(2025年3月17日)