要約
繁殖部門の一部で放牧を行う肉用牛の繁殖・肥育一貫経営へスマート放牧技術を導入すると、繁殖部門の労働時間と購入飼料給与量が削減されるだけでなく肥育成績も向上する。この結果、スマート放牧技術の導入に伴う新規投資額を考慮しても一貫経営全体としての収益性は向上する。
- キーワード : 荒廃農用地再生、スマート放牧看視、労働時間削減、購入飼料削減、収益性向上
- 担当 : 西日本農業研究センター・周年放牧研究領域・周年放牧グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
中山間地域では、高齢化・人手不足等による農用地の荒廃が問題となっており、その対策の一環として放牧地としての再生や活用のための技術が注目されている。また、放牧飼養では、スマート技術を活用したGPS首輪による放牧牛の看視技術も注目されている。しかし、これらの技術(以下、スマート放牧技術)の導入には新たな機械や施設への投資も必要になるため、導入により収益性がどの程度改善されるかについては判然としなかった。そこで、繁殖部門の一部で放牧を行いつつ繁殖から肥育までを行う一貫経営(以下、K牧場)にスマート放牧技術を導入し、導入前後の経営内容を比較することで同技術の導入による収益性の改善効果とその要因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- K牧場に導入したスマート放牧技術は、①荒廃農用地の効率的再生技術、②牧草導入とGPSガイダンス付きトラクタによる鶏ふんの効率的散布技術、③GPS首輪による放牧牛の位置看視・電牧監視技術の3つである(図1)。
- ①の導入により放牧圧が低下し灌木の侵入が目立っていた従来からの放牧地31ha(うち草地21ha)の牧草生産力が高まる。①と②の導入により荒廃農用地が放牧地33ha(うち草地16ha)として再生される。その結果、放牧利用面積が31haから64haに、放牧する繁殖雌牛の頭数が29頭から51頭に、年間放牧日数が250日から274日に拡大する(図2)。放牧地面積と放牧牛頭数が拡大するが、③の導入により拡大前と同様に牧場長と常時雇用者の2人で放牧牛を管理できる。
- 放牧対象牛(繁殖雌牛と子牛)が所属する繁殖部門において、子牛1頭当たりで評価した年間労働時間は合計で26.1%減少する。これは、直接的には、多くの労働時間を要する「給餌・給水」「除糞・敷料関係」という牛舎内作業の労働時間が30%以上減少することの効果が大きい(図3左)。この効果はスマート放牧技術の導入で放牧の頭数と期間が拡大できるために発揮される。
- 放牧草を摂取する個体および期間が増えたことにより、子牛1頭当たりで評価した繁殖部門の購入粗飼料と購入濃厚飼料の年間給与量はそれぞれ、25.0%、12.4%減少する(図3右)。
- 販売肥育牛のうち、高値が付く枝肉等級A4・A5の頭数割合(上物率)は64.1から81.9%へと上昇し肥育成績が向上する結果(表1の行3)、枝肉の平均販売単価も141から148万円/頭に上昇する(同2)。肥育成績の向上は、スマート放牧技術の導入により削減された繁殖部門の労働時間が作業者の能力開発や肥育牛の観察、問題のある肥育牛への対処に活用される結果、肥育部門の飼養管理技術が向上することで実現される。具体的には「他の牧場を視察することができるようになった結果、肥育牛に与える鉱塩の種類を変える等、栄養管理方法の改善につながった」「食べ残しのある肥育牛を特定し、その原因を究明するとともに、ビタミン補給や治療等の適切な措置がとれるようになった」ことである。
- スマート放牧技術の導入前後で、等級別の枝肉価格と購入飼料価格に変化が無いと仮定してK牧場における同技術の導入前後の所得を試算すると、販売肥育牛1頭当たり65.7%の所得向上が期待できることになる(表1の行15)。これは、同技術の導入により牧草栽培費(同6)、賃借料(同7)、機械費(同8)、その他の経費(同10)が増加する一方、これら増加額の合計を購入飼料費(同5)の減少額が上回ることと、上記5でみたように枝肉販売単価の上昇により収入が増加する(同1)ためである。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 繁殖経営、繁殖・肥育一貫経営、普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 山陰地域を中心とする全国。
- その他 : 経営規模等に応じたスマート機器への投資可能額と導入可能なスマート放牧技術と機器の選定方法については「発表論文等」の3)を参照。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業実証プロジェクト(スマート農業産地形成実証))
- 研究期間 : 2022~2025年度
- 研究担当者 : 渡部博明、平野清、堤道生、柿原秀俊、胡日査、渡邊也恭、高橋優(島根県畜技セ)、小林寛生(島根県畜技セ)、秋友一郎(山口県農総セ)、多度津大介(山口県農総セ)、藤田航平(山口県農総セ)
- 発表論文等 :