要約
メッシュ農業気象データシステムを活用して試算される温室の期間暖房負荷の精度は、大規模温室では、週単位以上の積算評価により向上し、地表面伝熱補正は不要である。本ツールは被覆資材の種類や暖房設定の差異が暖房燃料消費量に及ぼす影響を事前に評価する上で有効である。
- キーワード : 施設園芸、エネルギー、シミュレーション、API
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間畑作園芸研究領域・園芸作栽培・畑作物育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
温室の暖房コストの把握は、合理的な施設園芸の経営に欠かせない。燃料代の高騰は運転資金を容易に圧迫することから、迅速な意思決定が求められる場面もあるため、簡便な操作で試算でき、かつ試算精度は担保されている必要がある。そこで、本研究では2007年に公開された「わが国各地における各種温室の暖房燃料消費量の試算ツール」(職務作成プログラム、機構F-02)を踏襲しつつ、日本全国の農業気象データを1km四方の解像度で取り出して利用できるメッシュ農業気象データを利用して温室の期間暖房負荷を試算するツール(以下、暖房試算API)を開発し、大規模温室の期間暖房負荷試算における精度を検証する。
成果の内容・特徴
- 暖房試算APIの入力パラメータは、対象温室の位置情報(緯度・経度)、温室の規模・形状(間口、奥行、連棟数、軒高、棟高)、暖房設定(暖房設定温度、暖房開始日、暖房終了日)、および被覆資材の種類である。出力パラメータは、期間暖房デグリーアワー、期間暖房負荷、灯油換算の暖房燃料消費量である(表1)。
- 入力された緯度・経度、暖房開始日および終了日をもとに、メッシュ農業気象データシステムから日別の最高気温と最低気温の平年値を取得し、林・古在(1982)の式を用いて期間暖房デグリーアワーを算出する。さらに、温室の規模・形状と被覆資材の種類に対応する熱貫流係数を用いて期間暖房負荷を計算し、灯油の低位発熱量により灯油換算の暖房燃料消費量までを求める。
- 大規模温室(パプリカのハイガター栽培、栽培面積4.2ha、温湯暖房、宮城県栗原市)における1日あたりのLPG使用量(2020年4月~2022年3月の実績値)と、本ツールで算出した期間暖房デグリーアワーとの関係は、その算出に日別の最高気温と最低気温の平年値を用いるため、対象期間を日別値から週積算値、さらに月積算値へと長くするほど、相関係数は向上し、RMSE(二乗平均平方根誤差)は低下する(図1)。
- 厳冬期における大規模温室(パプリカのハイガター栽培、栽培面積0.9ha、温湯暖房、宮城県石巻市)の暖房負荷に占める地表面伝熱負荷の割合は1%未満であり(図2)、暖房試算APIの期間暖房負荷試算において地表面伝熱負荷に関する補正は必ずしも必要ではない。
成果の活用面・留意点
- 暖房試算APIは、入力パラメータの受理から、メッシュ農業気象データシステムのデータ取得、演算処理の実行、結果のレスポンス生成までを一連のプロセスとして、PythonのWebフレームワークであるDjangoとDjango REST frameworkを用いて構築されたWebAPIとして提供する。利用時には、APIと連携する入出力用のユーザーインターフェースを別途準備する必要がある。
- 暖房試算APIで試算可能な被覆資材に対応する熱貫流係数は、施設園芸・植物工場ハンドブック(2015)を参照している。
- 灯油以外の暖房燃料の使用量については、期間暖房負荷の計算結果と対象燃料の低位発熱量を活用することで柔軟に対応可能である。
- 暖房試算APIの計算手法は、夜間の温室内気温分布が比較的均一であることを前提としているため、局所加温技術による期間暖房負荷や省エネ効果を直接算出することはできない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業技術の開発・供給に関する事業)
- 研究期間 : 2020~2025年度
- 研究担当者 : 畔栁武司、伊吹竜太(宮城大)、高橋正明
- 発表論文等 :
- 畔栁(2020)職務作成プログラム「メッシュ農業気象データとDjango REST frameworkを用いた温室の暖房燃料消費量試算プログラム」、機構-M26
- 畔栁ら(2025)農研機構研究報告、23:67-75