放牧とイネ発酵粗飼料を利用しても従来と同等の発育、枝肉成績が得られる

要約

黒毛和種去勢牛の肥育において、生時から肥育前期の13ヵ月齢まで放牧育成し、その後、舎飼いで肥育用飼料としてイネ発酵粗飼料を可消化養分総量ベースで約3割給与する肥育給与プログラムの実行により、従来と同等の増体と肉質が得られる。

  • キーワード : 黒毛和種、イネ発酵粗飼料、乾物摂取量、枝肉成績、血液成分
  • 担当 : 西日本農業研究センター・周年放牧研究領域・周年放牧グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

放牧や自給飼料を活用する家畜飼養技術は飼料自給率や環境負荷低減の観点からも注目されている。しかしながら、放牧草や地域で自給できる粗飼料にはβ-カロテン(牛の体内でビタミンAに変換される成分)が多く含まれるため、黒毛和種の肥育においてはビタミンA制御の観点から放牧や自給粗飼料の積極的な導入が見送られる傾向にある。一方、近年、黒毛和種は高い遺伝的能力を持つ種雄牛が供用されることによる肉質向上がめざましく、環境要因であるビタミンA制御を緩和しても高い肉質が得られる可能性がある。そこで、飼料自給率を高める牛肉生産体系の確立のため、放牧やイネ発酵粗飼料(イネWCS)などの地域で自給できる粗飼料を活用する高品質な牛肉生産が可能な肥育技術を開発し、その検証を行う。

成果の内容・特徴

  • 肥育もと牛は、放牧地で分娩され、分娩後7~9ヵ月齢までは親子放牧し、親牛と分離後は13ヵ月齢まで肥育もと牛のみで放牧育成する黒毛和種去勢牛とする。放牧は、親子放牧、肥育もと牛のみの放牧ともに、それぞれイネ科牧草主体の草地において0.2~0.4ha/頭で行う。放牧中の補助飼料は、島根県の育成マニュアルに準じて、哺乳期子牛育成用配合(スターター)、育成用配合飼料およびオーツヘイを給与する(表1)。
  • 13ヵ月齢で放牧を終了し、肥育は牛舎で飼養する。濃厚飼料は肥育用指定配合飼料および大豆粕、粗飼料はイネWCSを分離給与する。肥育給与プログラムは、17ヵ月齢以降の濃厚飼料の給与量を一定とし、イネWCS由来の可消化養分総量(TDN)比が30%前後(一日あたり原物でイネWCSは12~13kg)になるプログラムとする(表1)。イネWCSの材料はWCS専用品種の「たちすずか」、「たちあやか」とし、イネWCSのビタミンA濃度は平均で5,500IU/kg(乾物中)である。
  • イネWCS採食量は成長に伴って徐々に低下するものの、肥育試験期間の全給与TDN中に対するイネWCS由来TDN比の平均は31.8%である(図1)。
  • 肥育期間中の日増体量の平均は1.03±0.28kg、肥育試験終了時(28.7ヵ月齢)の平均体重は917.5kg(824~994kg)であり、発育曲線の上限(日本飼養標準・肉用牛(2023))と同等である(図2)。
  • 血清中のビタミンA濃度は13ヵ月齢から25ヵ月齢まで平均で138.7±3.1IU/dlで推移し、ビタミンAコントロールによって推奨される血中ビタミンA濃度の推移(岡1999)よりも高い水準である(図2)。
  • 枝肉成績は脂肪交雑等級(BMS No.)の平均が8.5、サーロインにおけるオレイン酸(C18:1)の含有量は49.7%である(表2)。A-5割合は66.7%となり、全国平均の63.6%(日本食肉格付協会(2022))と同等である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 放牧や地域で生産できる粗飼料の活用は農地利用や地域経済の活性化に繋がることから、本技術は地域の活性化に貢献する高品質牛肉生産技術としてブランド化できる可能性がある。
  • 粗飼料の採食性は、濃厚飼料中の非繊維性炭水化物(NFC)濃度が影響するため、本技術の肥育給与プログラムで給与する肥育用配合飼料(NFC:63.0%)よりも低いNFC濃度の飼料を用いてイネWCS多給肥育を行う場合は、更なる検討が必要である。

具体的データ

表1 補助飼料給与量および肥育給与プログラム,図1 飼料採食量およびイネWCS由来TDN比の推移,図2 肥育期間中の体重および血中ビタミンA濃度の推移,表2 枝肉成績およびサーロインにおける脂肪酸組成

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 山口学、山田知哉
  • 発表論文等 : 山口、山田(2026)農研機構報告、24:83-94