軟化しにくい硬肉モモ果実におけるエチレン生成抑制機構
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要約
モモの硬肉はエチレン生合成を律速する1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACC)合成酵素のアイソジーンのひとつPp-ACS1の発現が果実成熟過程で抑制されることにより、果実のエチレン生成が起こらない形質である。
- キーワード:モモ、硬肉、エチレン、ACC合成酵素、果肉軟化
- 担当:果樹研・生理機能部・品質化学研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・栽培
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
硬肉タイプのモモ果実は、成熟に伴い果皮色の変化、糖度の上昇、減酸などは正常に進むが、エチレン生成が起こらないため軟化が抑制 されている。しかし、エチレン処理またはエチレンの直接の前駆体である1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACC)を添加することにより軟化するため、 硬肉モモの成熟果はエチレン感受性およびACCをエチレンに生合成する反応を触媒するACC酸化酵素(ACO)活性は正常に備えていると考えられている。 そこで、硬肉モモのエチレン生合成を律速するACC合成酵素(ACS)の遺伝子発現様式を解析する。
成果の内容・特徴
- モモには少なくとも3種類のACC合成酵素アイソジーン(Pp-ACS1, Pp-ACS2, Pp-ACS3)が存在する。
- 溶質品種「あかつき」では収穫後エチレン生成量が増加し、それにより果肉硬度が低下する。一方硬肉品種「有明」(ゆんめい)はエチレン生成と軟化が認められないが、5000ppmプロピレン(50ppmエチレンに相当)により軟化する(図1)。
- 溶質品種「あかつき」の果実では収穫後ACC合成酵素としてPp-ACS1のみが検出され、硬肉品種「有明」ではACC合成酵素遺伝子の発現は認められない(図2)。他の硬肉品種「おどろき」、「まなみ」についても同様な結果が得られることから、硬肉品種では成熟果実においてPp-ACS1が抑制されていると推定される。
- Pp-ACS1のゲノミックサザン解析では溶質、硬肉モモの間で違いがないことから、硬肉モモにおいてPp-ACS1の欠失やプロモーター領域等における大きなDNAの欠損または挿入も生じていない(図3)。
- 葉に傷害を与えると「あかつき」、「有明」ともにPp-ACS1およびPp-ACS2の発現が誘導される(図4)。
- 以上の結果からモモ果実の成熟過程におけるエチレン生成を制御するACC合成酵素のアイソジーンはPp-ACS1であり、硬肉モモではその発現が果実成熟過程でのみ特異的に抑制されている。
成果の活用面・留意点
- 硬肉モモにおいて果肉硬度が低下しない原因は、ACC合成酵素遺伝子Pp-ACS1の発現抑制にあるとする本研究の成果は、モモ果実の果肉硬度の調節や日持ち性改善等の技術開発に有用な情報となる。
具体的データ
その他
- 研究課題名:果実の成熟・老化に関わるエチレン生合成及び情報伝達機構の解析
- 課題ID:09-02-03-*-07-04
- 予算区分:文科委託金(科研費)
- 研究期間:2003∼2004年度
- 研究担当者:立木美保、土師岳、山口正己