イチゴの循環移動式栽培装置

要約

イチゴの循環移動式栽培装置は、栽培ベッドを循環移動させることで、慣行高設栽培のおよそ2倍の密植栽培ができ、単位面積あたりの収量が増加する。作業者は定位置で定植や収穫などができ、防除は栽培ベッドの移動に合わせて自動で行うことができる。

  • キーワード:イチゴ、高密植栽培、栽培ベッド、高設栽培、循環移動
  • 担当:生研センター・園芸工学研究部
  • 代表連絡先:電話048-654-7000
  • 区分:共通基盤・作業技術
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

慣行のイチゴの高設栽培では、7,000~8,000株/10a程度の栽植密度で栽培され、その収量はおよそ3~5t/10aである。単位面積あたりの生産量を向上させるためには、施設面積を有効利用し栽植密度を増大させることが求められる。そこで、慣行の高設栽培の通路を無くし栽培ベッドを縦方向と横方向に循環移動させ、定位置で作業を行うイチゴ栽培装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本装置は、横移送ユニット2基、縦移送ユニット2基、養液供給ユニット、防除ユニットおよび栽培ベッド62台により構成される(図1、表1)。
  • 横移送ユニットは、タイミングベルトを2本使った中抜きのベルトコンベアで、90WのACモータにより稼働し、移送速度は可変である。縦移送ユニットは、栽培ベッドの縦移送用に90WのACモータ、フックの起立、倒伏用に30WのACモータを備え、フック付の引き込み棒を起立およびスライドさせることで、フックを栽培ベッドに引っ掛け1ピッチ分(50cm)縦移送させる。栽培ベッドは、長さ1mのプランタ4個から成り、車輪により2.4m間隔の縦移送用レール上を移動する。
  • 装置全体の動作は、まず、栽培ベッドが横移送ユニットに載った状態(初期位置)から、ベルトコンベアにより横移送される。次にフック付の引き込み棒により手前の横移送ユニットから縦移送ユニットに載り移るとともに、縦移送ユニットから奥の横移送ユニットに押し出される。これによって、横移送ユニットに次の栽培ベッドが準備され初期状態に戻る。初期状態にある栽培ベッドが移送され、次の栽培ベッドが初期状態となる一連の動作に53~67sを要する。
  • 定植や収穫の作業は、栽培ベッドの横移送中に行うことから、作業者はほぼ定位置で作業ができる。かん水や防除は、横移送ユニットの中央に設置した養液供給ユニットや防除ユニットにより自動で行え(図2)、葉への十分な付着が得られる。
  • 栽培ベッド1台あたり32株(株間12.5cm)、ベッド間隔(畝間)が50cmで密植栽培(16,000株/10a)を行った時の収量は6.4~8.3t/10aと慣行高設栽培の2倍程度の収量が得られる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本装置は2011年以降農業資材メーカから市販化予定である。
  • 隣接する栽培ベッドの果実との接触や茎の絡み合いを避けるため、栽培ベッドの片側に花芽が出るように向きを揃えて定植する。
  • 導入の際は作業時間や周回時間を考慮し、適切な規模を設計する。

具体的データ

装置の構成栽培管理の状況

循環移動式栽培装置の主要諸元収量の比較

その他

  • 研究課題名:IT、ロボット技術等を活用した革新的な農業機械・装置等の開発
  • 中課題整理番号:800e
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:林茂彦、齋藤貞文、山本聡史、岩崎泰永、高橋信行(宮城農園研)
  • 発表論文等:林ら「移動栽培装置」特開2010–57448