ドリフトおよび騒音低減効果の高い棚栽培果樹用スピードスプレヤー

要約

棚面に近づけて散布できるノズル管支持装置により、小風量でも均一散布ができる棚栽培果樹用スピードスプレヤーである。防除効果を落とすことなく、ドリフトを大幅に減らし、かつ、低騒音化が可能である。

  • キーワード:棚栽培、ナシ、ブドウ、近接散布、ドリフト低減、騒音低減
  • 担当:農業機械化促進・環境負荷低減技術
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 研究所名:生物系特定産業技術研究支援センター・園芸工学研究部
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

果樹園における薬剤散布は主にスピードスプレヤー(以下、「慣行SS」)により行われている。送風を伴って機体側方や上方に薬液を散布しているため、ドリフトが懸念され、園端から10m離れた場所で0.1ppm以上の農薬残留量が検出される場合もある。また、ナシなどの棚栽培果樹園は園地と住宅地が近い都市近郊が多く、ドリフトに加えて、薬液散布時の慣行SSの騒音がトラブルの要因となることもあり、園端から10m離れても建設機械で規制されている85dB以上の騒音がある。そこで、ドリフトおよび騒音を低減できるスピードスプレヤーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発機は、運転席のスイッチで電動シリンダを伸縮してノズル管角度を調節できるノズル管支持装置を備え、棚高さや樹形に合わせて、散布高さ、散布角度を調節して、棚面から約20~40cmで近接散布する(図1)。
  • ノズル管支持装置は、園地の棚高さにノズル管全体を昇降できる高さ調節部、主枝の誘引角度などに合わせてノズル管中間部で散布方向が変えられる角度調節部、ノズル管先端が枝などに衝突したときにノズル管が安全に折れ曲がる衝突緩衝部を備える。
  • 従来のように大風量を必要とせず、送風機の回転速度を慣行SSより低く設定することができ、送風量を慣行SSの290~465m3/minと比べ、約30~60%低減できる。
  • 棚栽培果樹で散布したときの開発機の園外ドリフト低減効果は高く(表1)、開発機の付着性能は慣行SSと同等である。
  • 農薬の種類、希釈倍率、散布量条件が同じ慣行SS作業と同等の防除効果、出荷可能果実収量が期待できる(表2)。
  • 散布時の騒音が85dB以上の周囲面積が慣行SSでは約50m2であるが、開発機では85dBの騒音を生じないので、騒音低減効果が高い(図2)。
  • 小風量化により、面積当たり燃料消費量を4.6L/haから3.5L/haに25%節減できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ナシ、ブドウなどの棚栽培果樹生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内ナシ園13,900ha、ブドウ園18,000ha、普及見込み台数は5年間で100台である。
  • その他:2012年度市販化予定である。棚面最低位置1.3m以上、樹高(ネット高さ)4m以下、樹列間3.6~8mの棚栽培果樹に近接散布方法で適用可能である。

具体的データ

図1  開発機表1 ナシ園におけるドリフト低減効果
図2 散布時の騒音レベル

(太田智彦、大西正洋、吉田隆延、水上智道)

その他

  • 中課題名:環境負荷の低減及び農業生産資材の効率的利用に資する農業機械の開発及び評価試験の高度化
  • 中課題番号:600b0
  • 予算区分:交付金、第4次緊プロ(共同)
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:太田智彦、大西正洋、宮崎昌宏、吉田隆延、水上智道、山田祐一、宮原佳彦、 (株)丸山製作所、ヤマホ工業(株)、島田智人(埼玉農総研)、小河原孝司(茨城農総セ)