傾斜した法面等の除染を効率的に行う表土削り取り機

要約

法面等農地周辺に蓄積した放射性物質の除去対策として、表土の削り取りと排土の横搬送を一工程で行うトラクタの側方にオフセット装着する作業機である。表層土壌3~5cmを削り取ることによって空間線量率が低減し、高い除染効果を得ることができる。

  • キーワード:除染、法面、表土、削り取り、空間線量率
  • 担当:農業機械化促進・環境負荷低減技術
  • 代表連絡先:電話048-654-7000
  • 研究所名:生物系特定産業技術研究支援センター・園芸工学研究部
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響により、福島県を中心に広範囲の農地が放射性物質に汚染された。放射能汚染被害を受けた農地及びその周辺の除染には、放射性物質濃度の高い表土を削り取って排土することが空間線量率の低減に有効である。一方、表土削り取り機には高い除染効果を確保すると共に、汚染排土量削減のため、表土を高い精度で薄く削り取ることが強く求められる。そこで、主に法面を対象とした農地周辺の表土を省力的かつ安全に除染する法面表土削り取り機を開発し、効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 開発機は、55kW以上の外部油圧取出し栓を有する3点リンクJISII型装着方式の作業機である(図1、表1)。
  • 開発機は、トラクタの側方にオフセットできるとともに、上下それぞれ50°まで回動可能であることから、法面がトラクタ走行面に対して上下に傾斜していても法面の表土の削り取りができる。有効作業幅は1600mmで、削り取り深さは3cmと5cmの2段階に設定できる。
  • 削り取り部は95mmピッチで設けられた34組の掘削爪で構成され、その前方には表土の凹凸を均すためのローラを設け、安定した削り深さを維持できる。削り取られた表土は、搬送部(スクリュコンベヤ)により側方に排出され、回収し易いように筋状に盛土される。また、削り取った土の周囲への飛散がないようにフルカバー構造として、作業者等への飛散被ばくを最小限に抑える構造を採用している。
  • 開発機は高い除染効果を確保し、汚染排土量を削減するため、表土を薄く削り取るとともに(図2)、排土の横搬送をして排土列を作る作業を一工程で行うことができ、作業速度0.10~0.11m/sの場合には作業能率は1.7~2.0h/10aである。
  • 開発機による除染効果においては、削り取り深さを約5cmとした場合、放射性セシウム濃度(Cs-134+Cs-137)は78%低減し、地表1cmの空間線量率(コリメート法)は処理直後に80%低減し、その1ヶ月半後においてもほぼ同様である(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:除染を請け負う事業者や自治体
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:除染特別地域内の除染対象農地に付随する法面・20台
  • その他:安全に営農を再開するためには、農地だけでなく農地周辺の空間線量率を下げることも重要になる。なお、開発機は、法面のみならず、農道脇の傾斜面や平坦地での削り取り作業にも適応できる。2012年度中に市販化予定。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:環境負荷の低減及び農業生産資材の効率的利用に資する農業機械の開発及び評価試験の高度化
  • 中課題番号:600b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(放射能)
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:八谷満、宮崎昌宏、深山大介、千葉大基、市来秀之、落合良治、高橋正光、戸田勉((株)ササキコーポレーション)、前山達哉((株)クボタ)
  • 発表論文等:戸田、前山(2012)農業機械学会誌、74(4):259-264