動力なしで使える軽量コンパクトな腕上げ作業補助器具
要約
質量約2kgと軽量で簡易な構造の腕上げ作業補助器具であり、動力を使わずに作業者の腕を任意の高さでしっかりと支えることができる。ブドウ等の棚栽培果樹園における腕を上げて行う栽培管理作業の労働負担を軽減できる。
- キーワード:装着型、補助器具、労働負担軽減、棚栽培、腕上げ
- 担当:農業機械化促進・農作業安全
- 代表連絡先:電話 048-654-7000
- 研究所名:生物系特定産業技術研究支援センター・園芸工学研究部
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
棚栽培のブドウでの、花穂整形、ジベレリン処理、摘粒、袋掛け等の管理作業は果実が頭上付近に位置するため、腕を上げた状態で作業することになる。これらの作業は作業能率が低いため多くの時間を要するが、適期が短く限られた期間で行うため、一日中腕を上げた作業が続き、腕や肩に非常に負担の大きい作業となっている。そこで、動力を使わず簡易な機構で上げた状態の腕を支え、腕上げ状態での作業を楽にする装着型の補助器具を開発する。
成果の内容・特徴
- 開発した腕上げ作業補助器具は、作業者の腰に装着する作業ベルト、腕を載せるための腕受け部、それらを接続する連結機構から構成され、質量は約2kg である。モーター等の動力やバネ等の弾性部材を用いない簡易な機構である(図1)。
- 装着方法は、腰に作業ベルトを締め、腕受け部のバンドを腕に巻くだけである。
- 連結機構は溝部材と爪部材を備えており、作業者が肘を体の内側に寄せることで溝と爪が噛み合うため、上げた腕の重さを腰で支える。腕を支えている状態では、椅子の肘掛けに腕を載せているような感覚で作業を行うことができる。溝部材は腕受け部の回転中心から放射状に広がった形状をしており、任意の高さで腕が支えられる。また、肘を体の外側に開くことで溝と爪が外れ、腕を自由に上げ下げすることができる。
- ブドウ棚栽培ほ場で行った試験では、花穂整形、摘粒、袋掛けの作業で補助器具を装着することにより、腕(上腕二頭筋、上腕三頭筋)、肩(三角筋)、首(僧帽筋)の作業中筋活動量が、補助器具を装着しない慣行作業と比較して概ね低くなる。特に、摘粒、袋掛けでは僧帽筋の筋活動量が大幅に低下する(図2)。
- 作業者への聞き取り調査では、花穂整形、ジベレリン処理、摘粒、袋掛けの作業で補助器具を使用することで「楽になった」との回答が得られ、特に、ブドウの栽培管理作業の中でも作業能率が最も低く労働負担軽減の要望の高い摘粒作業について、約9割の作業者から「楽になった」との回答を得た(図3)。摘粒作業のように腕を同じ高さに上げ続ける時間が長い作業では補助効果が大きい。また、袋掛け作業は袋束を腕や首の位置に取り付けて、腕を上げたままの状態で作業することができる。
- 補助器具を装着しても腕の動作に支障がなく従来の作業ができるため、作業能率は補助器具を装着しない慣行作業と同程度である(図4)。
普及のための参考情報
- 普及対象:ブドウ等の棚栽培果樹生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国のブドウ栽培地域等。市販化5年間で、400ha、800台(ブドウ栽培面積約19,000ha、栽培農家数約37,000戸の約2%)。
- その他:2015年度に試行販売を開始予定である。果粒がある程度重くなり果房が下を向くまでの時期や、房の高さのバラツキが大きい場合など、作業時の腕の高さが頻繁に上下する場合は補助器具を装着すると煩わしくなることがある。
具体的データ

その他
- 中課題名:農作業の安全に資する農業機械の開発及び評価試験の高度化
- 中課題整理番号:600c0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2014年度
- 研究担当者:大西正洋、深井智子、太田智彦、大西久雄(ニッカリ)、薬師寺博、吉岡正明(群馬農技セ)、柚木秀雄(群馬農技セ)、酒井雄作(埼玉農総セ)、鈴木剛伸(長野果樹試)、小池明(徳島農総セ)、中野理子(徳島農総セ)
- 発表論文等:大西ら「腕支持器具」特開2014-239674(2014年12月25日)