乗用管理機搭載式ブームスプレーヤのブーム上下振動低減装置

要約

本装置は油空圧技術を用いたブーム上下振動低減装置であり、既存機のブーム昇降用油圧シリンダと交換して用いることで、車体の垂直方向の変位によるブーム上下振動を低減する。

  • キーワード:ブームスプレーヤ、垂直変位、上下振動低減、油空圧技術
  • 担当:農業機械化促進・環境負荷低減技術
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 研究所名:生物系特定産業技術研究支援センター・生産システム研究部
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、農地の集約などによる経営規模拡大により、生産現場では大規模ほ場に対応した機械の大型が進んでおり、乗用管理機搭載式ブームスプレーヤにおいても大型化が求められているが地表面に凹凸や傾斜がある場合、高速作業の際にブームが上下に激しく振動するため、ブーム先端が地面に衝突して破損する事故や、ブームの変位により農薬の不均一散布および目的外飛散による環境負荷が懸念されている。

そこで本研究では、農薬散布作業の高速化を可能にする乗用管理機搭載式ブームスプレーヤの開発を目指し、車体の垂直方向の変位によるブーム上下振動を低減する垂直変位低減装置(以下、HPS:Hydro-Pneumatic Suspension)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 乗用管理機搭載式ブームスプレーヤのHPS(図1、表1)は、単動油圧シリンダ、アキュムレータ、バルブブロックなどから構成される。
  • 本装置は、油圧ホースおよびバルブブロックなどを介して単動油圧シリンダと連結しているアキュムレータ内の窒素ガスが車体の垂直方向の変位とともに生じるブームの上下振動を吸収し、障害物を乗り越す際や路面の起伏などによって生じる車体の垂直方向の変位によるブームへの伝達を抑制する。
  • 本装置は、傾斜センサや加速度計など各種センサやそれらを制御するコントローラおよびアクチュエータなどを使用しないため、これらを使用した水平制御装置で問題となる制御遅れに起因する位相誤差による加振は生じない。
  • ブーム昇降操作は既存機と変わらないため、取扱性に問題はない。なお、HPSのON/OFFは運転席のオペレータ手元のコントローラスイッチで行うことができる。
  • 乗用管理機搭載式ブームスプレーヤ(表2)の左右両輪が同時に障害物(高さ60 mm)を乗り越える走行条件(両輪乗り越し条件)で、本装置を用いることによりブームの上下振動(全振幅)を、低速0.5m/sでは、約42%、高速1.0m/sでは約65%低減でき(図2)、畦畔の乗り越えやほ場の出入り時に効果がある。

成果の活用面・留意点

  • HPSは車体のロールによるブーム上下振動を低減しないため、別途対策が必要である。
  • 開発したHPSを後付けすることは可能であるが、アキュムレータやバルブブロックの設置スペース、既存のブーム昇降用シリンダの取付け位置とその可動方向などにより制限される場合が多く、後付け可能な車体は限られる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:環境負荷の低減及び農業生産資材の効率利用に資する農業機械の開発及び評価試験の高度化
  • 中課題整理番号:600b0
  • 予算区分:交付金、緊プロ
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:水上智道、吉田隆延、田中庸之、宮原佳彦、伊藤達夫(KYB)、稲田隆則(KYB)、田中保雄(KYB-ES)、徳田宏紀(KYB-ES)、太田淳(やまびこ)、森励輝(やまびこ)、柴崎大樹(やまびこ)
  • 発表論文等:
    1)水上ら「ブームスプレーヤ及びブーム制振装置」 特許第5801618号 (2015年9月4日)
    2)水上ら(2016)農業食料工学会誌、78(1)、54-6