キクの新病害「ピシウム立枯病」の発生と病原菌の温度反応特性

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要約

茨城、富山、香川の各県でキクに発生した立枯症状を新病害、ピシウム立枯病とする。病原菌はPytium ultimum var. ultimum, P. sylvaticum, P. dissotocum, P. oedochilum, P. helicoidesの5種であり、それぞれ生育および発病に関わる温度反応特性が異なる。

  • キーワード:キク、ピシウム立枯病、Pythium spp.、温度反応特性
  • 担当:花き研・生産利用部・病害制御研究室
  • 連絡先:電話029-838-6820、電子メールtuki@affrc.go.jp
  • 区分:花き
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

キク立枯れ性病害としては、立枯病(Rhizoctonia spp.)や萎凋病(Fusarium oxysporum)が知られているが、当研究室では新たにフザリウム立枯病(F. solani )を報告してきた。一方、立枯病登録薬剤を施用しても効果のない別種の立枯れ性病害の発生が近年キクに認められている。この新たな病害の病原を明らかにし、発病の温度特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2002年6月に茨城県東海村で、同11月に富山県富山市大沢野で露地およびハウス栽培のキク(品種:あけみ、白 露、ほたる、いのこ等)に立枯れ症状が発生した。病徴は初め下葉が黄化し、後に全体が萎れ、地際部の茎表面は上部に向かって徐々に褐変し,根および主根内 部も褐変する(図1A,B)。激発時は欠株となる。
  • 2003年9月に香川県丸亀市で、ハウスでの直挿栽培のキク苗(品種:神馬)に立枯れ症状が発生した。初め下葉が、後に全体が萎れ、地際部の茎表面は上部に向かって徐々に褐変し、欠株となる(図1C)。根も褐変し、根量が著しく減少する。
  • 病変部からはPythium属菌が高頻度で分離され、これらの蔵卵器、遊走子のう等の形態(図2)およびリボゾームDNA-ITS領域の塩基配列から、茨城菌をP. ultimum var. ultimum、富山菌をP. sylvaticum, P. dissotocumおよびP. oedochilumの3種、香川菌をP. helicoidesと同定し、キクのピシウム立枯病(新病害)とする。
  • 菌糸伸長適温は、P. ultimumが25℃で,他の菌種はいずれも30℃である。また,35℃ではP. helicoidesのみが伸長する(図3)。生育適温が25℃のP. ultimumと低温域での伸長性が高いP. sylvaticumは、20℃でも接種により高い発病度を示す。一方、いずれの菌種も25∼35℃の高温域でよく発病して、夏の高温下で本病の発病が多いことと一致する(図4)。菌糸伸長度と発病の最適温度は必ずしも一致しない。

成果の活用面・留意点

  • 本病は、根全体が水浸状に褐変し、根量が減少して、発病後期は根に白い菌糸塊が絡みつくことで他の立枯れ性病害と区別できる。
  • 菌糸が伸長しない35℃でも発病する原因は,発病実験条件下では根圏や植物体内の温度が低く抑えられたためと推定される。
  • 本病は春から秋に湿潤条件下で多発するが、詳しい生態は不明である。防除のため、今後有効薬剤等を明らかにする必要がある。

具体的データ

図1.キクのピシウム立枯病の病徴 A: 茨城県(露地)、B: 富山県(ハウス)、
C: 香川県(ハウス、直挿苗)

 

図2.ピシウム立枯病菌(Pythium spp.)の形態

 

図3.菌糸伸長に及ぼす温度の影響

 

図4.発病に及ぼす温度の影響(1:下葉黄化、2: 中葉黄化、3: 上葉黄化、4:全身萎凋)

 

その他

  • 研究課題名:温暖化に伴う育苗段階の花き類の立枯性病害の原因及び発生生態の解明
  • 課題ID:10-02-02-*-04-05
  • 予算区分:気候温暖化
  • 研究期間:2003∼2007年度
  • 研究担当者:月星隆雄、伊藤陽子、松下陽介、築尾嘉章