シロイヌナズナの光によるFT遺伝子発現誘導にはジベレリンが必要である

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要約

シロイヌナズナにおいて、長日処理によるFT遺伝子発現誘導にはジベレリン(GA)が必須であり、日長処理時の光量と光質が影響する。さらに、FTタンパク質と比較して効果は小さいながらもGAがフロリゲン様作用をもつ。

  • キーワード:ジベレリン、FT、花成、シロイヌナズナ、光質(R/FR)
  • 担当:花き研・生育開花調節研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6819
  • 区分:花き
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

植物の生長発育過程において花成は重要なイベントである。最近、シロイヌナズナのFlowering Locus T (FT)遺伝子が、未知とされてきた花成ホルモンの情報をもつ遺伝子であり、花成ホルモンの実態がFTタンパク質であることが明らかにされた。また、長日植物ではジベレリン(GA)が花成に重要な役割を担うことが古くから知られていた。そこで、花成誘導におけるFTとGAとの関連について明らかにするために、FT遺伝子発現に及ぼす光条件とGAの影響について調査し、長日植物の花成におけるこれら要因の相互関係について検討する。

成果の内容・特徴

  • シロイヌナズナの開花は1回の長日刺激で誘導可能である(図1)。この花成誘導はFT遺伝子の発現とリンクする(図1)。長日処理時の光質がFT遺伝子発現に影響し、FR-rich光源とR-rich光源ではFT遺伝子発現パターンが異なる。また、光量もFT遺伝子発現に影響し、R-rich光源の場合、光量が低いとFT遺伝子の発現、花成誘導ともに長日効果が著しく低い。
  • 長日条件において、シロイヌナズナGA欠損変異体(ga1-3)の開花ならびに葉におけるFT遺伝子発現は著しく抑制される。これらの抑制はGA投与により解除される(図2)。
  • シロイヌナズナにおいては短日条件において、FT遺伝子発現の上昇を伴わなくても葉身へのGA投与により花成誘導が可能であり、GAもフロリゲン様作用をもつ(図2)。
  • シロイヌナズナにおいて、長日処理によるFT遺伝子の発現誘導にGAが必要であることを示したはじめての報告である。

成果の活用面・留意点

  • 花き類の花成誘導機構解析に利用できる。
  • 光の波長のうち、赤色光領域(R:600~700nm)と遠赤色光領域(FR:700~800nm)の比率をR/FRで示す。本実験では、FR-rich光源として白熱灯(R/FR = 0.8)ならびにR-rich光源として白色蛍光灯(R/FR = 4.5)を使用した。

具体的データ

図1 シロイヌナズナの花成誘導(A)ならびに葉におけるFT mRNA発現に及ぼす長日1回処理時の光質、光量の影響(B).エコタイプ Columbiaを供試し、22°C、短日(SD:8時間日長、PPFD:100μmol m-2 s-1、白色蛍光灯、R/FR = 4.5)条件で実施。長日処理(16時間)時の光源にはFR-rich光源、R/FR = 0.8; R-rich光源、R/FR = 4.5を用いた。 光強度はHigh (100μmol m-2 s-1), Low (10μmol m-2 s-1)とした。

図2 シロイヌナズナGA欠損変異体(ga1-3)の花成誘導における長日処理と葉身へのGA投与の影響.花成反応(A)、開花所要日数(B)、葉におけるFT mRNA発現(C).SD: 8h日長条件, LD: 長日(16h) 1回処理後, SD条件で栽培

その他

  • 研究課題名:きく等切り花の生育・開花特性の解明と安定多収技術の開発
  • 課題ID:213-g
  • 予算区分:基盤、高度化事業
  • 研究期間:2004~2007年度
  • 研究担当者:久松 完、R.W.King(CSIRO)
  • 発表論文等:1)King et al. (2008) J. Exp. Bot. 59: 3811-3820.
                       2)Hisamatsu and King (2008) J. Exp. Bot. 59: 3821-3829.