バラの花弁展開に伴う細胞肥大における糖質の関与

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要約

バラの花弁の展開と成長は主として細胞肥大による。花弁の細胞肥大には、シンプラストとアポプラストへの糖質の蓄積が関与している。糖質の細胞内分布は疎水性溶媒密度勾配遠心分画法とインフィルトレーション遠心分離法を組み合わせることで解析できる。

  • キーワード:アポプラスト、液胞、花弁展開、シンプラスト、バラ
  • 担当:花き研・花き品質解析研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6801
  • 区分:花き
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

バラ等の花きでは花弁の展開過程が観賞の主体となっているため、これを制御できれば観賞価値を高めることが可能である。花弁展開機構の解明により、薬剤等による展開制御技術の開発あるいは展開パターンが異なる品種開発に寄与する有用な情報を提供できる。展開に伴う花弁の成長には、糖質をはじめとした浸透圧調節物質の蓄積と水の流入による花弁細胞の肥大が寄与していると考えられている。したがって、花弁細胞の肥大機構の解明には糖質の細胞内分布の解析が必要とされている。そこで、糖質の細胞内分布の解析方法を開発し、バラの花弁展開に伴う花弁細胞の肥大における糖質の関与を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • バラ「ソニア」において、花弁の新鮮重と乾物重はその展開に伴い上昇する。ステージ2から3にかけて新鮮重のほうが乾物重よりも増加が著しく、この間に細胞への吸水が促進されていることが示唆される(図1B)。
  • 花弁中の主要な構成糖質であるフルクトースとグルコースの含量は、その展開に伴い著しく増加する(図1C)。
  • 花弁の展開に伴い表皮細胞面積が急激に増大することから、花弁成長は主に細胞肥大によるものであることを示唆される。細胞肥大には液胞の巨大化が伴う(図2)。
  • アポプラスト(原形質膜の外側)、細胞質および液胞中の糖質濃度を、疎水性溶媒密度勾配遠心分画法とインフィルトレーション遠心分離法を組み合わせることと、透過型電子顕微鏡写真から算定した体積に基づき算出する方法を開発した。細胞質と液胞の糖質濃度からシンプラスト(原形質膜の内側)における糖質由来の浸透圧を算出した結果から、糖質由来の浸透圧は花弁展開に伴い著しく上昇することが示唆される(図3)。この上昇はフルクトースとグルコース濃度に依存している。
  • 花弁展開前のステージ2では、アポプラストとシンプラストとの間の糖質由来の浸透圧に大きな差がないが、総浸透圧の差は大きい。この差は無機イオンにある程度依存している。総浸透圧の差は花弁展開に伴い小さくなる(図3)。
  • 以上の結果から、シンプラストとアポプラストとの間に浸透圧差が存在する条件下で、糖質をアポプラストとシンプラストに輸送することにより、細胞内の浸透圧が上昇する。浸透圧を高めながらアポプラストとシンプラストとの間の浸透圧差を維持することにより、細胞内へ水の流入を促すことが花弁細胞肥大の一因になっていると結論される。

成果の活用面・留意点

  • 花弁展開機構を解析するための、基礎情報となる。
  • 糖質の細胞内分布を解析する手法は多くの植物のさまざまな器官においても、応用可能である。

具体的データ

図1 バラの開花に伴う花の形態(A)花弁の新鮮重と乾物重(B)および糖質含量(C)の変化

図2 バラの開花に伴う花弁細胞の形態変化

図3 バラの開花に伴う花弁におけるシンプラストとアポプラストにおける浸透圧の変動

その他

  • 研究課題名:花きの品質発現機構の解明とバケット流通システムに対応した品質保持技術の開発
  • 課題ID:313b
  • 予算区分:基盤、科研費、組換え植物
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:市村一雄、山田邦夫(名古屋大)、乘越亮(東京農大)、鈴木克己、西島隆明
  • 発表論文等:Yamada et al. (2009) Planta 230: 1115-1127