ジベレリンによるキクのLFY相同遺伝子CmFLの発現誘導および花芽分化の促進

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要約

花芽分化に低温を必要とする栽培ギク品種は、ジベレリン要求をもつ。そのようなジベレリン要求性品種では、LFY相同遺伝子CmFLの発現誘導にジベレリンを必要とする。

  • キーワード:キク、花成、ジベレリン、低温反応、CmFL、遺伝子発現
  • 担当:花き研・生育開花調節研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6801
  • 区分:花き
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

キクは、秋から冬にかけての低温条件下でロゼットを形成して休眠状態となり、花芽分化しなくなる。この現象はキクの安定生産を妨げる要因となっている。このような状態の株が、再び茎伸長し花芽分化できる状態になるためには、低温に遭遇することが必要である。多くの低温要求性植物では、ジベレリン(GA)が花成を促進し、特にシロイヌナズナにおいて、GAは花芽形成遺伝子LFYの発現増加を誘導し、花成を促進することが知られている。そこで、キクにおいて花芽分化における低温およびGAの影響、ならびに、GAがキクのLFY相同遺伝子CmFLの発現に及ぼす影響を解析する。

成果の内容・特徴

  • 調査した栽培ギク4品種のうち、系統94-4008および「シティ」では、低温処理無しの株は花芽分化しないが、低温処理(5°C、8週)した株では花芽分化することから花芽分化に低温を必要とする。一方、「セイローザ」および「ナガノクイン」では、花芽分化は低温処理の有無によって影響を受けない。
  • 系統94-4008および「シティ」では、低温処理した株でも、GA生合成阻害剤ウニコナゾールP(UCZ)処理によって、花芽分化が抑制される(,図1)。このUCZによる花芽分化の抑制は、GA3処理によって回復する。一方、「セイローザ」および「ナガノクイン」では、花芽分化はUCZおよびGA3処理による影響を受けない。
  • 以上から、花芽分化において低温を必要としない「セイローザ」および「ナガノクイン」ではジベレリンを必要とせず、逆に、低温を必要とする系統94-4008および「シティ」では、低温に加えてジベレリンが必要である。花芽分化におけるGA要求は、花芽分化における低温要求性の品種間差が原因であると考えられる。
  • ジベレリン要求性の系統94-4008において、短日処理後、花芽形成遺伝子CmFLの発現が増加するが、UCZ処理によって花芽分化が抑制される場合には、CmFLの発現増加はみられない(図2)。UCZ処理による花芽分化の抑制がGA3処理によって回復する際には、CmFLの発現が増加する。よって、キクにおいてGAはCmFLの発現を促進し、花芽分化を促進する。一方「セイローザ」では、CmFLの発現はUCZおよびGA3処理による影響を受けない。

成果の活用面・留意点

  • キクの花成を制御する分子機構の解明に繋がる。
  • 花芽分化における低温要求とジベレリン要求の間に強い関連があることを示唆した本成果は、品種選抜ならびに栽培技術開発の一つの目安となる。
  • CmFLの機能については、Li et al.(J. Hort. Sci. Biotech. (2009) 84(4): 447-453)によって報告されている。

具体的データ

表 GA<sub>3</sub>およびウニコナゾールP処理が花芽分化個体率に及ぼす影響

図1 GA<sub>3</sub>およびウニコナゾールP処理が花芽分化に及ぼす影響.実験終了時の系統94-4008(左図)および「ナガノクイン」(右図)の植物体

図2 GA<sub>3</sub>およびウニコナゾールP処理が<i>CmFL</i>の発現に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:きく等切り花の生育・開花特性の解明と安定多収技術の開発
  • 課題ID:213g
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(実用遺伝子)
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:住友克彦、久松 完
  • 発表論文等:Sumitomo K. et al. (2009) Plant Sci. 176(5):643-649