キク挿し穂に発生した病害:「キク苗腐敗病」

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要約

愛知県内でセルトレイで育苗中のキクに生育障害が発生したため、原因を調査したところ、Plectosporium tabacinumが病原菌であることが判明し、本病を「キク苗腐敗病」と命名する。

  • キーワード:キク、苗腐敗病、Plectosporium tabacinum、新病害
  • 担当:花き研・生育開花調節研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6820
  • 区分:花き、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

キクの大規模生産では、挿し穂生産は海外で行うなど、国際分業化が進んでいる。この状況下で、2008年9月、愛知県においてセルトレイで育苗中のキク(品種;「神馬2号」)で生育障害が発生した。当該苗は海外産購入苗で挿し穂10日後も全く発根せず、穂の先端が黒変・腐敗していた(図1)。そこで、この苗から病原菌を分離し、分類・同定を行う。

成果の内容・特徴

  • 病斑部からは、クリーム色の菌叢で、表面が粘質、生育の比較的遅い菌が高率で分離される(図2)。
  • 本菌分生子懸濁液にキク健全挿し穂(品種:「神馬」)を浸漬した後、育苗用土を詰めたトレイに挿し、7~14日間育苗したところ、接種区では、しおれが目立ち、挿し穂の切断面が黒変する。多くは発根するが、一部の挿し穂は発根しない。病斑部からは接種菌が回収される。
  • 本菌はジャガイモ煎汁ショ糖寒天培地上で、5~35°Cで生育する。生育適温は25°Cである。25°Cでの菌糸生育速度は3mm/日である。本菌はモノフィアライド(アデロフィアライドもあり)上に分生子を擬頭状に形成する(図3)。分生子は無色、平滑、紡錘形で2細胞が多い(時に単細胞)。分生子の大きさは2細胞のもので13.5×4.4μm、単細胞のもので8.1×2.4μmである(表1)。本菌のrDNA-ITS領域の塩基配列は Plectosporium tabacinumのそれと99%一致する。
  • 以上の培養性質、形態的特徴およびrDNA-ITS領域の塩基配列から、本菌はPlectosporium tabacinumと同定される。キク挿し穂の腐敗症状は記録が無いため、新病害と考えられ、キク苗腐敗病(cutting rot)と呼ぶことを提案する。

成果の活用面・留意点

  • 本成果を基に、2009年5月20日、愛知県より平成21年度発生予察特殊報第2号が出されている。
  • 本病は海外産輸入苗に発生したものであるが、海外で既に感染していたのか、日本で感染・発病したのかについては不明である。

具体的データ

図1 本病の病徴

図2 分離菌の分生子

図3 擬頭状に形成された分生子およびフィアライド先端の杯状部

表1 キク分離菌と既知Plectosporium属菌との形態および培養性状比較

その他

  • 研究課題名:きく等切り花の生育・開花特性の解明と安定多収技術の開発
  • 課題ID:213g
  • 予算区分:基盤、実用技術
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:佐藤 衛、築尾嘉章、松下陽介、住友克彦
  • 発表論文等:Satou M. et al. (2010) J. Gen. Plant Pathol. 76:225-228