葉緑体DNAの多型が示すワビスケツバキ「太郎冠者」の母方祖先
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要約
ワビスケツバキ「太郎冠者」と49種のツバキ属植物について、葉緑体DNA atpI-atpH領域の多型を比較し、「太郎冠者」の母方祖先が中国原産のツバキ属植物Camellia pitardii var. pitardiiである可能性が高いことをみいだした。
- キーワード:ワビスケツバキ、「太郎冠者」、母方祖先、葉緑体DNA
- 担当:花き研・花き品質解析研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-6801
- 区分:花き
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
ワビスケツバキは、おしべやめしべの退化変形、小輪一重、早咲き性を特徴とするツバキの園芸品種群である。成立起源により2つのグループに大別される。一つは「太郎冠者」(図1a)および「太郎冠者」の子孫由来と推定されている品種群で、もう一つはヤブツバキから突然変異により成立したとされる品種群である。「太郎冠者」は日本産のツバキと異なる特徴を有することから、中国産のツバキ属植物とヤブツバキの雑種由来と推定されている。母方からのみ遺伝する葉緑体DNAの atpI-atpH領域についてPCR-RFLP分析やシークエンス解析を行い、「太郎冠者」の母方祖先種を解明するとともに、他のワビスケツバキ品種の成立起源についても検証する。
成果の内容・特徴
- 49種のツバキ属植物と「太郎冠者」のatpI-atpH領域の塩基配列を比較したところ、Camellia pitardii var. pitardii(図1b)とC. polyodontaが「太郎冠者」の塩基配列と一致する。形態的特性やこれまでに報告されている情報と総合し、C. pitardii var. pitardiiが「太郎冠者」の母方祖先種である可能性が高い。
- PCRで増幅したatpI-atpH領域の3’末端側から88番目(プライマー部分を除く)の塩基は、「太郎冠者」ではシトシン(C)であるのに対し、ヤブツバキではアデニン(A)である。
- 「太郎冠者」の子孫由来と推定されるワビスケツバキ品種の大部分が、atpI-atpH領域の3’末端側から88番目の塩基にシトシンを有することは、これらの品種が「太郎冠者」を起源として成立したという従来の説を支持するものである(表1)。88番目の塩基がアデニンである「豊佗助」は、ヤブツバキを母方祖先、「太郎冠者」を父方祖先として成立した来歴が知られている。88番目の塩基がアデニンである「胡蝶佗助」、「数寄屋」、「姫佗助」についても、「豊佗助」と同様に成立したワビスケツバキであると考えられる。
- 「加賀佗助」「西王母」はおしべやめしべが正常であり、ワビスケツバキではないものの、「太郎冠者」との類縁関係が議論されている。これらの88番目の塩基はシトシンで、「太郎冠者」に由来する品種であることが示される。
- ヤブツバキの突然変異由来で成立したとされるワビスケツバキ品種は、「吉備」を除き、いずれも88番目の塩基がアデニンである。「吉備」は「太郎冠者」と類似した形態的特性を有し、88番目の塩基がシトシンであることから、「太郎冠者」由来のワビスケツバキである可能性が高い。
成果の活用面・留意点
- 葉緑体DNA atpI-atpH領域は、ツバキにおける種間雑種品種の種子親や母方祖先の同定に有用な領域である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:花きの品質発現機構の解明とバケット流通システムに対応した品質保持技術の開発
- 課題ID:313b
- 予算区分:基盤、ジーンバンク
- 研究期間:2002~2008年度
- 研究担当者:谷川奈津、小野崎隆、中山真義、柴田道夫
- 発表論文等:Tanikawa N. et al. (2010) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 79(1):77-83