トレニアの花色・花形の改変のための転写因子を効率的に選抜する方法

要約

50種類程度のキメラリプレッサー遺伝子を一括してトレニアに導入することで多種の形質転換体を同時に作出する。その結果、花形や配色パターンを変化させるものなど、様々な有用形質を付与する遺伝子を効率よくスクリーニングすることができる。

  • キーワード:遺伝子組換え、CRES-T法、転写因子、キメラリプレッサー、シロイヌナズナ、トレニア
  • 担当:花き研・新形質花き開発研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6822
  • 区分:花き
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

遺伝子組換えによる園芸花きの花色・花形の改変においては、キメラリプレッサーが機能重複因子に優先して働き形質変化を誘導するCRES-T法が有効である。一方で、遺伝子の機能から期待される表現型が必ずしも得られないことがあり、どの遺伝子が有用形質を付与するかは形質転換体作出後でしか評価できない。そのため、多種の形質転換体を作出して評価する必要がある。そこで、多種の形質転換体を作出する作業を簡略化し、有用形質を付与する遺伝子を効率よく選抜するための手法を、トレニアを材料として開発する。

成果の内容・特徴

  • 50種類程度のキメラリプレッサー遺伝子(転写抑制ドメインSRDXを付加したシロイヌナズナ由来の転写因子)を一括してアグロバクテリウムに導入し、トレニアにバルク感染させる。除菌以降の植物体再生などの手順は従来の手法と同様である(図1)。
  • 得られた形質転換体から有用形質を持つものをスクリーニングする(図1)。その植物体からゲノムを抽出し、PCRおよびシークエンスによって導入遺伝子を確認することで、有用形質を付与する遺伝子を同定する。
  • 形質転換体の8割以上は単一の遺伝子のみの導入である。また、導入する約50遺伝子のうち7~9割の遺伝子に対する形質転換体が得られることから、個別に1つずつ導入するよりも効率よく一度に多種の形質転換体を得ることができる(図2)。
  • シロイヌナズナでは機能未知の遺伝子もトレニアでは花の形質を変化させるものがあるなど、様々な花色・花形の有用形質を付与する遺伝子を同定することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 導入に用いる転写因子には、シロイヌナズナなど配列が既知の遺伝子を用いることで、ゲノムが解読されていない植物からの遺伝子単離の労力を軽減することができる。
  • 一度に多数の遺伝子を導入できるため、機能未知の遺伝子も積極的に導入することができる。
  • 花色・花形を改変する転写因子の選抜の結果から得られた情報をもとに、目的形質に関連する転写因子遺伝子を選択して用いることで、形質改変の効率向上が期待できる。
  • シロイヌナズナでは機能未知の転写因子もトレニアでは花の形質を変化させるものがあるため、形質転換トレニアを機能解析のツールとして利用することが可能であり、モデル植物では明らかにならなかった新たな機能の解明につながる可能性がある。
  • トレニアに限らず、アグロバクテリウムを介して形質転換が可能な各種花きへ適用できる可能性がある。

具体的データ

図1.有用形質を付与する遺伝子のスクリーニングの流れ

図2.導入遺伝子の種類数

図3.花色・花形が改変された遺伝子組換えトレニア

 

その他

  • 研究課題名:花きの花色改変等新形質付与技術の開発
  • 中課題整理番号:221k
  • 予算区分:高度化事業、イノベーション創出事業
  • 研究期間:2005~2010年度
  • 研究担当者: 大坪憲弘、四方雅仁、鳴海貴子、山口博康、佐々木克友、
                        間竜太郎、光田展隆(産総研)、高木優(産総研)
  • 発表論文等: 1)Shikata et al. (2011) Plant Biotechnol. 28:189-199
                        2)四方ら(2009)ブレインテクノニュース、134:11-15