トレニアクラスB遺伝子の花弁形成における機能解析と花器官形質改変への利用
要約
トレニアクラスB遺伝子TfGLOおよびTfDEFは花器官の形成や下流の遺伝子発現制御において、部分的に協調して同様の機能を示す一方で、異なった機能も担っている。これら2種類のクラスB遺伝子の利用により、花器官に新しい形質付与が可能になる。
- キーワード:トレニア、クラスB遺伝子、TfDEF、TfGLO、アントシアニン
- 担当:花き研・新形質花き開発研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-6822
- 区分:花き
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
花弁の形成は、一般的にクラスB遺伝子GLOBOSA (GLO)およびDEFICIENS (DEF)が協調的に制御することが知られている。花弁の形態は園芸花きの観賞価値にとって最も重要なファクターであるが、八重化やフリル化等、花弁の形態を制御する技術は開発されていない。本研究では、夏の花壇花として流通する一方で花弁形態のレパートリーに乏しいトレニアを用い、クラスB遺伝子TfGLOおよびTfDEFそれぞれの機能を解析して、花器官に新しい形質を付与する技術の開発を目指す。
成果の内容・特徴
- TfGLO-過剰発現体の萼では、野生型の萼と異なりアントシアニンが蓄積する(図1-A、図2)。一方、TfDEF-過剰発現体では、花弁、萼ともに変化が見られなかった(図1-B)
- TfGLO-発現抑制体の花弁は、色が薄くなり花弁の縁が鋸歯化する(図1-A)。
- TfDEF-発現抑制体の花弁は、部分的(一部放射線状)に色が抜けるかすれ模様の形質を示す(図1-B)。
- TfGLO-過剰発現体の萼の先端部の表皮細胞は、野生型の花弁の表皮細胞と類似した形態に変化する(図3)。
- TfGLO-およびTfDEF-発現抑制体の花弁の表皮細胞は、部分的に野生型の萼の表皮細胞と類似した形態に変化する(図3)。
- TfGLOおよびTfDEFは分子間で結合し、下流遺伝子に関して部分的に同様の遺伝子発現制御を示す一方で、アントシアニン合成系遺伝子に関しては異なった発現制御を示す(図4)。
- 本成果は、2種類のクラスB遺伝子が花器官の形成や下流の遺伝子発現に関して部分的に協調して同様の機能を示すだけでなく、それぞれが異なった機能も有している現象を新たに報告したものである。
成果の活用面・留意点
- TfGLOやTfDEFそれぞれが分類されるGLO/PIやDEF/AP3サブファミリーは多くの高等植物で保存されていることから、本成果の情報は他の園芸花きの花器官形成または遺伝子機能の解析に関して基礎情報となる。
- 遺伝子組換えにより、トレニアの花弁に色の変化やかすれ模様の形質、または花弁の縁に鋸歯の形質を与えることが可能になる。
- トレニアのつぼみにアントシアニンが蓄積することにより、野生型とは異なり開花前からの観賞利用も可能になりうる(図2)。
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他の園芸品種についても、クラスB遺伝子の機能を促進または抑制することで、花弁や萼(つぼみ)に対して同様の形質付与が可能になる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:花きの花色改変等新形質付与技術の開発
- 中課題整理番号:221k
- 予算区分:イノベーション創出事業
- 研究期間:2008~2010年度
- 研究担当者:佐々木克友、間竜太郎、山口博康、四方雅仁、仁木智哉、西島隆明、大坪憲弘
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発表論文等:Sasaki et al. (2010) Mol. Genet. Genomics 284(5):399-414