キクタニギクFT相同遺伝子CsFTL3はキクの花成ホルモンをコードしている

要約

キクタニギクFLOWERING LOCUS T (FT)相同遺伝子CsFTL3は、花成誘導条件で発現が上昇する。CsFTL3を過剰発現するキク組換え体は花成非誘導条件において開花がみられることから、CsFTL3はキクにおいて花成ホルモンをコードしている。

  • キーワード:キク、FT、花成、開花、日長反応、短日植物、遺伝子組換え
  • 担当:日本型施設園芸・花き効率生産
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国の主要生産花きであるキクは短日植物であり、限界日長より短い日長で開花する性質から、電照やシェードによって日長を制御し、開花を調節することができる。この技術によって、キクは計画生産出荷が行われているが、不時出蕾などの問題があり、さらなる周年安定生産に貢献する技術開発が必要である。最近、タンパク質が花成ホルモン(フロリゲン)であることが長日植物であるシロイヌナズナと短日植物のイネを用いた研究により提唱されている。しかし、キクの栽培品種の多くは六倍体であり、遺伝子解析が困難であることなどから、キクにおける花成ホルモンの実態は明らかになっていなかった。そこで革新的なキク栽培技術の開発に繋げることを目的として、キクの開花調節機構の基盤情報を集積するために、栽培ギクと同様の生育開花特性を示す二倍体のキク属野生種、キクタニギクを供試し、キクの花成ホルモンをコードする遺伝子の同定を目指す。

成果の内容・特徴

  • キクタニギク(Chrysanthemum seticuspe f. boreale、二倍体野生種)から3種類のFLOWERING LOCUS T (FT)様の塩基配列をもつ遺伝子、CsFTL1CsFTL2CsFTL3を単離した。CsFTL1CsFTL2CsFTL3の塩基配列から系統解析を行った結果、これらの遺伝子はキク属の分化後に重複が起こったパラログであると考えられた。このうち、CsFTL3のみが花成を誘導する短日条件において葉での発現が上昇する(図1)。
  • キクタニギク(系統NIFS-3)は12時間以下の日長条件で花芽分化する(図2)。葉でのCsFTL3の発現は、12時間以下の日長条件下で13時間以上の日長条件に比較して上昇している(図2)。また、13時間以下の日長条件で花芽分化するキクタニギク(系統Matsukawa)では13時間以下の日長条件下でCsFTL3の発現が上昇する。
  • CsFTL3を過剰発現するキク「神馬」形質転換体は花成非誘導条件の長日条件において開花することから、栽培ギクにおいてもCsFTL3が花成促進機能を持つことが示された(図3)。
  • CsFTL3を過剰発現するキク「神馬」形質転換体を台木として、野生型「ナガノクイン」の穂木を接ぎ木することで、長日条件において穂木の花芽分化を誘導できる。台木から穂木への花成誘導の接ぎ木伝達性が確認できたことから、CsFTL3が花成ホルモンをコードしていることが示された(図4)。

成果の活用面・留意点

  • キクの開花調節機構の分子生物学的理解に繋がる重要な基礎知見である。
  • 限界日長以下の短日条件下でのCsFTL3の発現上昇を指標として、花序分裂組織の分化以前の段階で開花特性の判定が可能となり、キクの開花生理に関わる大学、公設研究機関等の研究者が活用できる知見である。

具体的データ

図1 長日条件から短日条件に移行後、1日目におけるキクタニギク葉でのFT相同遺伝子の発現図2 キクタニギクの異なる日長条件における花成反応と長日条件から各日長条件に移行後、7日目における葉でのCsFTL3の発現
図3 CsFTL3を過剰発現するキク「神馬」図4 CsFTL3を過剰発現する台木による野生型穂木の花成誘導 (矢印は接ぎ木面を示す)

(小田 篤、久松 完)

その他

  • 中課題名:生育開花機構の解明によるキク等の主要花きの効率的計画生産技術の開発
  • 中課題番号:141e0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(光プロ)
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:小田 篤、久松 完、鳴海貴子(香川大農)、李 托平(遼寧大学)、神門 卓巳(島根県農技セ)、樋口洋平、住友克彦、深井誠一(香川大農)
  • 発表論文等:Oda A. et al. (2011) J. Exp. Bot. doi:10.1093/jxb/err387