ワビスケツバキ「太郎冠者」の花弁に含まれる新規フラボノール

要約

ワビスケツバキ「太郎冠者」の花弁には新規の4配糖体型フラボノールである3-O-[2-O-キシロシル-6-O-(3-O-グルコシル-ラムノシル) グルコシル] ケンフェロールが存在する。この化合物を「太郎冠者」の学名にちなみウラクノサイドと命名する。

  • キーワード:ウラクノサイド、ケンフェロール、太郎冠者、ワビスケツバキ
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ワビスケツバキ「太郎冠者」(Camellia uraku Kitamura)はワビスケツバキ品種の起源品種であると考えられている。形態的特徴および葉緑体DNA多型の研究から、「太郎冠者」は中国原産のC. pitardii var. pitardiiとヤブツバキの雑種であると推定されている。花弁のアントシアニン生合成関連化合物を指標とする化学分類的観点からも祖先種に関する知見が得られるものと考えられる。そこで本研究では「太郎冠者」花弁の主要フラボノイド化合物について同定を行う。

成果の内容・特徴

  • HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析の結果、「太郎冠者」の花弁の主要フラボノイドとして4種類のフラボノールが検出される。
  • 1H-NMR分析とESI-MSによる質量分析の結果から、2種類は既知のフラボノールであるケルセチン 3-ラムノシドとケンフェロール 3-ラムノシドと同定される。
  • 残りの2種類のフラボノールについて、1次元NMR(1H-NMR、13C-NMR、HOHAHA)および2次元 NMR(COSY、HMQC、HMBC)分析、高分解能FAB-MSによる質量分析、UVスペクトル分析、および加水分解によるアグリコンと糖の同定を行った結果、1種類は既知のフラボノールの3-O-[6-O-(3-O-グルコシル-ラムノシル) グルコシル] ケンフェロールと同定される。
  • 残りの1種類は、3-O-[2-O-キシロシル-6-O-(3-O-グルコシル-ラムノシル) グルコシル] ケンフェロールと構造が決められる(図1)。1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルデータを表1に示す。この4配糖体型フラボノールは新規化合物であり、「太郎冠者」の学名にちなんでウラクノサイドと命名する。
  • 3-O-[6-O-(3-O-グルコシル-ラムノシル) グルコシル] ケンフェロールやウラクノサイドのように、基本構造に3-O-(6-O-ラムノシル-グルコシル)フラボノールを持つフラボノイドは、ツバキ属植物から多く報告されている。3-O-(6-O-ラムノシル-グルコシル) フラボノールは、ツバキ属植物が生合成するフラボノールの特徴的な基本構造の一つと考えられる。

成果の活用面・留意点

同定された4種のフラボノールは、「太郎冠者」の祖先種を解明する上で、化学分類的指標として利用できる。

具体的データ

図1.ウラクノサイドの構造
表1.ウラクノサイドの1H-NMRおよび13C-NMRの スペクトルデータ(ジメチルスルホキシド-d6, 1H: 500 MHz, 13C: 125 MHz, 25°C)

(谷川奈津)

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題番号:141h0
  • 予算区分:ジーンバンク、交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:谷川奈津、中山真義、吉田久美(名古屋大院)、近藤忠雄(名古屋大院)、水野貴行(農工大連合院)、岩科 司(国立科博)
  • 発表論文等:Tanikawa N. et al. (2011) Biosci. Biotechnol. Biochem. 75: 2046-2048.