トレニアの花弁および雄蕊の形成にはTfUFO遺伝子が必須である

要約

花弁が萼化し、雄蕊が欠失したトレニア変異体における変異表現型の原因は、TfUFO遺伝子の1塩基置換である。花器官発達過程におけるTfUFOタンパク質とTfLFYタンパク質間の結合が花弁および雄蕊の形成に重要である。

  • キーワード:トレニア、花弁、雄蕊、TfUFO、TfLFY、クラスB遺伝子
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

遺伝子組換え作物の商業利用には生物多様性影響の評価が必要である。導入遺伝子の拡散防止に有効な手段である不稔化技術の開発のために、花器官形成メカニズムに関する知見の蓄積が急務である。本研究では、花弁が萼化し雄蕊が完全に欠如したトレニア変異体の原因遺伝子を解明し、花器官形成に関する機能を解析することで、不稔化技術開発に向けた花器官形成ひいては雄蕊形成に関する情報を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 花弁が萼化し、雄蕊が欠失したトレニア変異体 (252変異体;図1A) では、内在クラスB遺伝子であり花弁および雄蕊形成に関わるGLOBOSA(TfGLO)遺伝子およびDEFICIENS(TfDEF)遺伝子の発現が、それぞれ消失または低下している。
  • 252変異体ではクラスB遺伝子の配列に変異はみられない。一方、クラスB遺伝子の発現を制御するユビキチン-プロテアソーム複合体の因子であるUNUSUAL FLORAL ORGANS(TfUFO)遺伝子の配列にアミノ酸置換を生じる1塩基置換が認められる。
  • 野生型のTfUFO遺伝子を252変異体に導入したところ、変異表現型が回復するのみならず(図1B)、クラスB遺伝子の発現も回復する。一方、変異TfUFOの導入では、252変異体における変異表現型およびクラスB遺伝子の発現の回復は見られない。すなわち、変異表現型の原因はTfUFO遺伝子の変異である。
  • TfUFO遺伝子の発現を消失させた組換えトレニアでは、252変異体と同様に花弁が萼化し、雄蕊が欠失する。
  • 変異型TfUFOは野生型TfUFOとは異なり、花器官形成遺伝子の発現制御に関わる転写因子LEAFY(TfLFY)とのタンパク質-タンパク質結合活性が消失している(図2)。
  • 252変異体では、花器官形成初期のTfUFO遺伝子の発現は野生型と同様に見られるが、花弁および雄蕊の発達が進むにつれて発現しなくなる(図3)。これらの結果から、花器官形成初期のTfUFOとTfLFYの結合が、その後の花弁および雄蕊の形成に重要と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • UFO遺伝子は多くの高等植物で保存されていることから、本成果は植物の花弁および雄蕊形成を制御する分子機構の解明に役立つ。
  • 遺伝子組換え等による不稔化技術開発に向けた基礎的知見となる。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題番号:141h0
  • 予算区分:イノベーション創出事業、交付金
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:佐々木克友、山口博康、間竜太郎、四方雅仁、阿部知子(理研)、大坪憲弘
  • 発表論文等:Sasaki K. et al. (2012) Plant J. 71: 1002-1014