葉緑体DNA解析によるツバキ属品種「炉開き」と「田毎の月」の母系祖先種の解明

要約

葉緑体DNAのatpI-atpH領域とtrnL-trnF領域のPCR-RFLP分析およびatpI-atpH領域のDNA塩基配列の解析により、成立起源が議論されてきたツバキ属園芸品種の「炉開き」と「田毎の月」の母系祖先種がそれぞれユキツバキとユチャであることが示される。

  • キーワード:ツバキ、品種成立起源、葉緑体DNA多型、母系祖先種
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ツバキ属の園芸品種は、主にヤブツバキ、ユキツバキ、サザンカ、トウツバキの種内変異および種間雑種から成立している。いくつかの園芸品種では、形態的特徴などからその成立に他のツバキ属植物が関与したことが推定されており、「炉開き」(図1)はチャとユキツバキの自然交雑により生じた品種であり、サザンカ園芸品種に分類される「田毎の月」(図1)はサザンカとは別種のユチャから生じた品種と考えられている。ツバキ属植物のように交配から開花まで長期間を要する植物では、既存品種の成立起源に関する情報は交配育種の効率化に有用である。葉緑体DNAは母性遺伝をする。本研究では、これまで得られてきたツバキ属植物の葉緑体DNA多型の情報を活用することで、これら2品種の母系祖先種を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ツバキ属植物では、atpI-atpH/TaqIのPCR-RFLP分析で8種類(800a、800b、800c、1200a、1200b、1200c、1200d、1200e)、trnL-trnF/TasIのPCR-RFLP分析で5種類(A1~A5)の多型が検出されている。これまで「炉開き」と「田毎の月」の成立に関与が議論されてきたヤブツバキ(800a・A2型、1200a・A2型、1200d・A2型)、ユキツバキ(800a・A3型)、チャ(1200a・A3型)、サザンカ(800b・A1型)、ユチャ(1200a・A1型)を多型比較の指標とする(図2および表1)。
  • 「炉開き」の多型はユキツバキと同じ800a・A3型であり、「田毎の月」の多型はユチャと同じ1200a・A1型である(図2および表1)。
  • 「炉開き」と「田毎の月」のatpI-atpH領域のDNA塩基配列を解析した結果、それぞれユキツバキとユチャのDNA塩基配列と一致する。
  • 以上の葉緑体DNAのPCR-RFLP分析および塩基配列解析の結果から、「炉開き」の母系祖先種がユキツバキであり、「田毎の月」の母系祖先種がユチャであることが示される。

成果の活用面・留意点

ツバキ属園芸品種では、近代以前に出現し、成立起源に関する記録が残っていないものが多い。また、作出後、長い年月が経過して成立起源に関する情報があいまいになる場合も考えられる。そうしたツバキ属園芸品種の起源解明に、葉緑体DNAの多型解析は有効な手段となる。

具体的データ

 図1~2,表1

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題番号:141h0
  • 予算区分:ジーンバンク、交付金
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:谷川奈津、伴雄介、森田裕将、中山真義、柴田道夫
  • 発表論文等:谷川ら(2013)園学研. 12: 9-14