ナデシコ属野生種の芳香性カーネーション育種素材としての評価

要約

芳香性ナデシコ属野生種との種間交雑によって、親品種のカーネーションより香気成分の種類と発散量が多い後代が得られる。これらの野生種は、カーネーションの芳香性を改良するための育種素材となり得る。

  • キーワード:カーネーション、香り、種間雑種、芳香族化合物、テルペノイド
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

切り花用カーネーション品種は微香性であり、主要香気成分は安息香酸メチルである。“香り”は、消費者が切り花を購入する際に重視する品質の一つであり、香気成分の質的・量的な改良により切り花カーネーションの付加価値は向上すると考えられる。ナデシコ属野生種は、安息香酸メチルだけでなく多様な香気成分を有し、カーネーションに比較して芳香性の強い系統が多い。そこで、複数の芳香性ナデシコ属野生種とそれらのカーネーション交雑種の香気成分を解析し、野生種の芳香性カーネーション育種素材としての評価を行う。

成果の内容・特徴

  • 芳香性野生種の香気成分は、複数の芳香族化合物やテルペノイドで構成され、がくを除いた花器官の同生体重当たりの総香気成分発散量はカーネーションの20~100倍多い(図1)。
  • カワラナデシコ(Dianthus superbus var. longicalycinus)との雑種第1代である4K38-2の特徴的な香気成分は、テルペノイドのβ-オシメンやβ-カリオフィレンである(図1)。
  • Dianthus sp. 4との雑種第1代である10W02-1の特徴的な香気成分は芳香族化合物の安息香酸メチルとサリチル酸メチルである(図1)。
  • Dianthus sp. 5との雑種第1代である10W10-2の特徴的な香気成分は芳香族化合物のベンジルアルコールである(図1)。
  • Dianthus sp. 6との雑種第1代である10W13-4の特徴的な香気成分はo-アニス酸メチルを含む複数の芳香族化合物である(図1)。
  • 各交雑後代のがくを除いた花器官の同生体重当たりの総香気成分発散量は、親品種のカーネーションよりも5~70倍増加する(図1)。

成果の活用面・留意点

  • カワラナデシコは、カーネーションにテルペノイド系の香りを導入し、香気成分発散量を向上させる育種素材となり得る。
  • Dianthus sp.4、Dianthus sp.5およびDianthus sp.6は、カーネーションにサリチル酸メチル、ベンジルアルコール、o-アニス酸メチル等の芳香族化合物系の香りを導入し、香気成分発散量を向上させる育種素材となり得る。
  • Dianthus sp.4、Dianthus sp.5およびDianthus sp.6は、カーネーションとの交雑稔性および獲得種子の発芽率が低い場合がある。

具体的データ

 図1

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題番号:141h0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:岸本久太郎、八木雅史、小野崎隆、山口博康、中山真義、大久保直美
  • 発表論文等:Kishimoto K. et al. (2013) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 82: 145-153