難DNA抽出性植物からの高純度DNAの抽出・精製手法
要約
ポリビニルポリピロリドン(PVPP)を含む抽出液と超遠心を組み合わせた方法は、これまで困難であった植物から高収量、高純度のDNAを抽出できる。
- キーワード:PVPP、DNA抽出、難DNA抽出性植物
- 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
- 代表連絡先:電話 029-838-6801
- 研究所名:花き研究所・花き研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
植物の遺伝解析を行う際には目的とする植物の組織からDNAを抽出する必要がある。基礎研究に用いられるシロイヌナズナ等の植物についてはDNAを抽出する手法がある程度完成されているものの、園芸植物から大量・高純度のDNAを得ることは難しい。バラ、ツバキ、シクラメン(図1)からDNAを抽出するのは特に困難であり、成長期の芽を利用する等の特別な配慮をしてかろうじて微量のDNAが抽出できる程度である。本研究ではこうした難DNA抽出性植物(recalcitrant plants)の成熟葉から効率よくDNAを抽出する手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)液(Edwards et al., 1991)や臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)液(Murray and Thompson, 1980)といった一般的な抽出液を用いた場合、シクラメンの成熟葉からはほとんどDNAが抽出できない。
- CTAB液にPVPP(重量比0.5%)を加えさらにpHを9.5と高くしたPVPP液を用いることにより効率よくDNAが抽出できる(図2)。クロロホルムおよびフェノールと混和し遠心後上層(水相)を回収、エタノール沈殿することによりDNAを粗精製する(図3)。
- 高塩濃度下でのイソプロパノール沈殿やCTAB沈殿ではあまり精製できないのに対し、塩化セシウムを用いた超遠心ではDNAを精製できる。
- 少なくとも本研究の結果によれば、DNA純度の評価は一般的な吸光度による方法は必ずしも正確ではなく、電気泳動し標準DNAとバンドの濃さを比較することにより正確なDNA量を把握できる。画像解析ソフトでバンドの濃さを計算し標準DNAにより作製した標準曲線に当てはめることによりDNA量の数値化も可能である。
- この手法によりバラ、ツバキ、マツ、キク、コチョウラン、チャの成熟葉からも純度の高いDNA(λ-DNAと比較した相対純度30~100%程度)を得ることができる。得られたシクラメンのDNAについてPCR、制限酵素処理およびアダプターPCRの成否を確認したところ可能である。
成果の活用面・留意点
- 本手法により、これまで調査した全ての植物の成熟葉からDNAを抽出可能である。シクラメンの場合、1gの葉から従来法では超遠心で精製可能な量のDNAが抽出出来ないところ、本法では20μgほどのDNAを抽出・精製できる。
- 本手法はフェノールやエチジウムブロマイドといった取り扱いに注意を要する試薬を用いるので、抽出にあたっては実験用ゴム手袋を用いる。
具体的データ
その他
- 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
- 中課題整理番号:141h0
- 予算区分:農食事業、交付金
- 研究期間:2012~2013年度
- 研究担当者:大坪憲弘、佐々木克友、笠島一郎、寺川輝彦(北興化学工業)、田中悠里(北興化学工業)
- 発表論文等:Kasajima I. et al. (2013) Scientia Horticulturae 164: 65-72