葉の黄化抑制も可能なユリ香り抑制剤

要約

開発したユリ香り抑制剤には、アミノオキシ酢酸、ジベレリン、スクロース、抗菌剤を含む。香り抑制剤をユリ切り花に処理することにより、香りと葉の黄化は抑制される。香り抑制効果は乾式輸送よりも湿式輸送、夏季より冬季の方が高い。

  • キーワード:ユリ、香り、抑制
  • 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

「カサブランカ」に代表されるオリエンタル・ハイブリッド系のユリは、豪華で美しい大輪の花を持つが、甘く濃厚な芳香を有するために、強い香りを嫌う場、例えば飲食店や結婚式などの食事の場では敬遠される場合がある。そこで、香気成分の生合成阻害剤の一つであるアミノオキシ酢酸(AOA)を用いてユリの強い香りを抑制する方法を開発し、2009年に発表した。しかし、ユリ切り花のAOA処理により花や茎葉に障害がでる場合がある。そこで、後処理剤としての汎用性を高めたAOAを含む香り抑制剤を開発して、現場での使用を可能にする。また、時期や産地により異なる栽培・輸送環境により処理効果が不安定になることから、ユリ主要産地(新潟県、高知県、埼玉県)にて処理方法を検討し事例集を作成する。

成果の内容・特徴

  • アミノオキシ酢酸(AOA) 0.1 mM、ジベレリン 0.02mM、スクロース0.3%、イソリアゾリン系抗菌剤(0.58 mg/L 5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、0.18 mL/L 2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン含有)から構成される処方を処理することにより、花や茎葉に障害を与えることなく香り抑制が可能である。その処方を基に開発した香り抑制剤処理を行うと、AOA単独処理と同程度香りを抑制した上、葉の黄化を抑制する(図1)。
  • 香り抑制剤は蕾の状態のユリ切り花に処理する。生産者にて処理する場合は、採花後、50倍希釈した香り抑制剤で水揚げ処理を行う(図2)。
  • 水揚げ時のみ香り抑制剤処理を行う乾式輸送よりも、水揚げ時に加え輸送中にも香り抑制剤処理を行う湿式輸送の方が香り抑制効果は高い(図3)。
  • 夏季より冬季の方が香り抑制効果は高い(図4)。
  • 上記の成果に基づき、ユリの香りの特徴と各産地での香り抑制剤の処理方法を示した主要産地事例集を作成した。

普及のための参考情報

  • 普及対象:切り花の生産者、普及機関従事者。
  • 普及予定地域・普及予定面積等・普及台数等:ユリ切り花産地等。
  • その他:事例集は花き研究所により冊子体を配布するとともに、花き研究所ホームページ上でPDFをダウンロードすることができる。香り抑制剤は受注生産であり、切り花の生産者、小売店経営者などが注文して購入できる。【問い合わせ】クリザール・ジャパン株式会社(連絡先0721-20-1212,info@chrysal.jp)

具体的データ

図1~4

(大久保直美)

その他

  • 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
  • 中課題整理番号:330a0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:大久保直美、東明音(クリザール・ジャパン)、石川貴之(埼玉農総セ園研)、二宮千登志(高知農技セ)、福原宏(高知中央西農振セ)、宮島利功(新潟農総研園研セ)
  • 発表論文等:
    1)Oyama-Okubo N. et al. (2011) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 80: 190-199
    2)大久保(2012)花き研究所報告、12: 113-120
    3)大久保「花き用香り抑制剤」特許第5062704号(2012年8月17日)
    4)農研機構(2014)「ユリの香りの特徴とユリ香り抑制剤の処理方法 主要産地事例集
    (2015年1月5日)