キクタニギクの高温開花遅延において高温感受性が高いのは暗期後半である
要約
キクは高温で開花が遅延することが問題となっている。キクタニギクにおいて高温に対する感受性が高い時間帯は暗期後半である。高温による開花遅延はフロリゲン様遺伝子の発現抑制によるものである。
- キーワード:キク、高温開花遅延、短日植物
- 担当:日本型施設園芸・花き効率生産
- 代表連絡先:電話029-838-6801
- 研究所名:花き研究所・花き研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
キクの周年生産において、高温による開花遅延が問題となっている。高温開花遅延の機構を明らかにすることで、栽培技術開発および育種による周年生産の安定化に寄与できると考えられる。
十分な暗期長下のキクでは、葉でフロリゲン様遺伝子(FTL3)が発現し花成を誘導する。高温条件下でFTL3発現量が低下することが高温開花遅延の一因となっている。一方、暗期長が不十分な条件のキクでは、葉でアンチフロリゲン様遺伝子(AFT)が発現し花成を抑制する。本成果情報では、短日、20°Cの条件で育成しているキクタニギクに対して、30°Cでの高温処理を長さと時間帯を変化させて行うことで、一日のうち高温感受性の高い時間帯と花成制御遺伝子の発現の関係を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 短日(8時間明期/16時間暗期)、20°Cの条件において、1日あたり16時間の高温処理(30°C)を行った場合、暗期後半~明期終了に高温遭遇させると70日目に未開花である(図1)。1日あたり8時間の高温処理の場合、暗期後半高温遭遇させると到花日数が増加する(図1)。1日あたり4時間の高温処理の場合、暗期中間あるいは暗期終了前に高温遭遇すると到花日数が増加する(図1)。これらの結果から、暗期後半の高温処理が到花日数の増加に対する寄与が高いことが導かれる。
- 高温処理時間の長さが同じ場合には、到花日数とFTL3の発現量には負の相関が認められる(図1、2)。
- AFT発現の処理区間差は小さく、短日処理開始前に比べると、温度にかかわらず短日条件で抑制される(図3)。
- キクタニギクの開花は暗期後半の高温に対して感受性が高く、遅延しやすい。高温による開花遅延は主にFTL3の発現抑制によるものである。
成果の活用面・留意点
- 人工気象器にて基準となる気温を20°C、高温処理を30°Cとして栽培した結果である。自然条件での栽培においては、日最高気温が正午過ぎに、日最低気温が夜明け前になることを考慮する必要がある。
- 秋ギクと同等の開花特性を有する、野生種キクタニギクを用いた結果である。
- 栄養繁殖した材料であり、図1無処理区に見られるように育苗ロットの違いで多少、生育・開花反応が異なる。発現量も含め各実験間のデータ比較はできない。
具体的データ
その他
- 中課題名:生育開花機構の解明によるキク等の主要花きの効率的計画生産技術の開発
- 中課題整理番号:141e0
- 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
- 研究期間:2012-2015年度
- 研究担当者:中野善公、樋口洋平、住友克彦、小田 篤、久松 完
- 発表論文等:Nakano Y. et al. (2015) J. Hort. Sci. & Biotech 90(2)143-149.