ヤブツバキ「千年藤紫」の紫色花色発現におけるアルミニウムの関与
要約
ヤブツバキ品種「千年藤紫」の紫色花色は、アントシアニンがアルミニウムとキレート結合することにより発現する。
- キーワード:アントシアニン、花色、金属イオン、ヤブツバキ
- 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
- 代表連絡先:電話029-838-6801
- 研究所名:花き研究所・花き研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ツバキ園芸品種の多くが日本に広く自生するヤブツバキをもとに成立しており、花色は通常赤、桃、白色の範囲に限られている中で、稀に紫色のヤブツバキ個体が発見されている。この紫色花色は園芸的に非常に価値があるものの、不安定な発現を示し、赤紫色、あるいは通常のヤブツバキと同様の赤色となる場合が多い。このような性質を持つ「千年藤紫」の赤、赤紫、紫色の花について分析を行い、紫色の発色機構を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 3個体の「千年藤紫」について調査したところ、個体1の2013~2015年に開花した花は、通常の野生ヤブツバキと同様の赤色である(図1a)。個体2の2013年および個体3の2014年に開花した花は赤紫色である(図1b)。個体3の2013年の花色は紫色である(図1c)。
- 図2に示すように、表皮細胞は、赤色花弁では一様に赤色であるのに対し、赤紫色花弁では赤と紫色の細胞が混在し、特に紫色の細胞は維管束周辺に観察される。紫色花弁ではより多くの細胞が紫色になる。また、多くの紫色の細胞に青黒い顆粒が観察される。
- 「千年藤紫」の主要アントシアニンは、一般的な赤いヤブツバキの主要アントシアニンのシアニジン3-グルコシドおよびシアニジン3-p-クマロイルグルコシドである。異なる花色間で、花弁のアントシアニン含有量に大きな違いは認められない。コピグメントになり得るフラボン、フラボノール、および桂皮酸誘導体類はほとんど検出されない。花弁搾汁液のpH、花弁のカルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅および亜鉛含有量に花色間で大きな違いは認められない。
- 花弁のアルミニウム(Al)含有量に異なる花色間で有意な差が認められ、赤紫および紫色花弁のAl含有量は、それぞれ赤色花弁の4-10倍および14-21倍である(図3)。花弁搾汁液のpHであるpH 4.8に調整したシアニジン3-グルコシド溶液は薄赤色で沈殿は生じない。これにAlを添加すると溶液の紫色が増し、紫色の表皮細胞で観察される顆粒と類似した沈殿物が生じる。
- 「千年藤紫」の紫色花色は、花弁のAl含有量の増加にともない、Alがアントシアニンにキレートされることにより発現する。
成果の活用面・留意点
- 紫色花色品種に対してAlによる紫色発現の安定化が期待できる。
具体的データ
その他
- 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
- 中課題整理番号:141h0
- 予算区分:交付金、その他外部資金(ジーンバンク)
- 研究期間:2008~2015年度
- 研究担当者:谷川奈津、中山真義、井上博道
- 発表論文等:Tanikawa N. et al. (2016) Hort. J. 印刷中