幼樹開花特性を用いたカンキツ類の育種期間の短縮
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要約
幼若期にある1年生実生苗の時にのみ特異的に着花する幼樹開花現象が,カンキツ類の一部の品種で認められる。幼樹開花率は,3月上旬のGA3(100ppm)処理により向上する。また,幼樹開花個体を花粉親とした雑種実生でも10~20%が幼樹開花し,幼樹開花特性が遺伝することが明らかとなったので,幼樹開花個体の花粉を利用して育種期間を短縮することが可能である。
背景・ねらい
カンキツの幼若期は長く,一般に初着花するまでに6~10年を要する。そのため世代を 進めて優用遺伝子を蓄積していく交雑育種には,極めて長い年数を必要とし,問題となっ ている。一方,カンキツ類の一部の品種で1年生珠心胚実生苗が開花するという幼樹開花 現象が起こることが知られているが,幼樹開花個体出現率は安定せず,遺伝性も明らかで ないため,育種への利用ができなかった。そこで,幼樹開花個体の出現率を向上させる技 術を開発し,その遺伝性を明らかにして,幼樹開花個体の花粉を用いて次世代を育成し, 育種期間の短縮の可能性を検討した。
成果の内容・特徴
- 幼樹開花特性を持つグレープフルーツの1年生珠心胚実生では,GA3(100ppm)の3月上旬処理で,幼樹開花率を向上させることができた(図1)。
- グレープフルーツを花粉親とした多くの組み合わせにおいて,幼樹開花する個体が出現した。特に,「はやさき」や「河内晩柑」を種子親とした場合には,約20~30%の高い割合で幼樹開花した。また,「清見」や「クレメンティン」を種子親とした場合にも約10%の個体が幼樹開花した(表1)。
- 幼樹開花した雑種個体の花粉を用いて「清見」との雑種を育成したところ,その10~20%が幼樹開花し,この遺伝的特性を利用して短期間で世代を進めることが可能となった(図2)。
成果の活用面・留意点
交雑育種において,育種期間を短縮する有効な手法である。GA処理時期によっては幼樹開花率を減少させるので注意する。なお,2年生以上の実生苗では,通常幼樹開花しな い。
具体的データ
その他
- 研究課題名:カンキツの幼若性の解明と制御技術の開発
- 予算区分:平成2~5年・特別研究(ジュベニリティ)
- 研究担当者:根角博久,吉岡照高,吉田俊雄,伊藤祐司
- 発表論文等:カンキツの幼樹開花に作用する植物生長調節物質の選抜,園学雑,59,別2,
1990。
幼樹開花現象を用いたカンキツの世代促進(第1報),園学雑,61(別2),
1993。
幼樹開花現象を用いたカンキツの世代促進(第2報),園学雑,61(別2),
1993。
幼樹開花現象を用いたカンキツの世代促進(第3報),園学雑,64(別1),
1995。