かんきつ中間母本農1号

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要約

「F.N.ワシントン」ネーブルオレンジと「林ウンシュウ」の間で育成された種間細胞融合雑種で四倍体の品種である。果皮が厚く,強いオレンジ香の,柔軟多汁で酸味の強いカンキツである。花粉稔性を有するため,育種素材として使用できる。

  • 担当:果樹試験場・安芸津支場・育種法研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:育種
  • 対象:果樹類
  • 分類:普及

背景・ねらい

交雑では雑種を育成するのが困難なネーブルオレンジとウンシュウミカンの間で細胞融合法により雑種を作出し,得られた体細胞雑種を育種素材として利用する。

成果の内容・特徴

  • 「F.N.ワシントン」ネーブルオレンジの珠心カルス由来のプロトプラストと「林」ウンシュウミカン実生の葉肉由来のプロトプラストを融合して育成した体細胞雑種で,平成7年8月に「かんきつ中間母本農1号」として登録・公表された。
  • 樹は開張性で樹勢は中。枝はやや下垂し,節間長は長く,枝梢に太く長いトゲが発生する。葉は緑色が濃く,幅が広い。花弁は白色で幅が広い。めしべの発達が不完全な花が多いが,正常な花では子房は球形で両親より小さい。花粉は充実しており,花粉量も多い。花粉稔性は82.0%で,発芽率は11.7%である。ネーブルオレンジは雄性不稔であり,ウンシュウミカンも通常は花粉を形成しない(表1)。しかし,両者の細胞融合雑種である本中間母本は稔性を有する。開花期はオレンジとほぼ同時期で,育成地では5月中~下旬である。
  • 果実は192gで,果形は長球。果頂部が窪む。果皮は黄橙色で,強いオレンジ香を有しており,著しく厚い。果面は粗く,剥皮は容易である。果肉は橙色で,柔軟多汁。果肉にも強いオレンジ香がある。しかし,じょうのう膜に若干苦みがある。12月中旬の分析では,果汁中の糖度は屈折計示度で10.4%と中程度であるが,クエン酸含量が1.85%と高く(表2),成熟期は2月中・下旬と考えられる。種子は多胚性である。
  • 「サザンレッド」,「クレメンティン」などとの交雑により三倍体実生の得られることが確認されている(表3)。

成果の活用面・留意点

無核品種の育成に三倍体の利用が試みられているが,本中間母本は花粉稔性を有することから,二倍体との交雑により三倍体実生を作出することが可能である。

具体的データ

表1.「かんきつ中間母本農1号」の樹体、葉および花粉の特性

表2.「かんきつ中間母本農1号」の果実の特性

表3.「かんきつ中間母本農1号」を花粉親に用いた交雑による三倍体実生の作出

その他の特記事項

  • 研究課題名:カンキツ類における細胞融合による育種素材の作出
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(昭和61年~平成5年)
  • 発表論文等:カンキツ体細胞雑種の果実形質および花粉稔性,園学雑,64(2),1995.