夏季の異常気象に対応可能なニホンナシ「幸水」の果実肥大予測法
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要約
ニホンナシ「幸水」の果実肥大を,日射量から予測するためのモデルを生態実験の積み上げにより開発した。このモデルによって近年続発する夏季の異常気象下でも果実肥大の予測が可能であり,全国各地でそのまま使用できる。
- 担当:果樹試験場・栽培部・気象研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 部会名:果樹
- 専門:農業気象
- 対象:果樹類
- 分類:研究
背景・ねらい
気象要素から果実肥大を正確に把握,予測できれば,結実管理等により,気象変動への対応が可能となる。従来の果実肥大予測は,過去の気象と肥大実績の関係を,統計的に解析するものであり,統計の範囲を超える異常気象年や,統計を取った地点以外の地域での適用には限界がある。これは統計モデルが必ずしも生態反応を正確に表現していないからである。そこで統計によらず,生態実験の積み上げにより,主力品種「幸水」の果実生育と気象の関係を正確に表現するモデルを開発する。
成果の内容・特徴
- 気象に対する生態反応を忠実に反映するモデルによる予測であるため1極端な気象にも対応できる,2原則として,どの地域にも適応できる,という特徴を持つ。
- 実験により1温度は満開後約1ヶ月(摘果期)まで果実生長に影響し,その後は影響しない,2果実生長量は,摘果期の体積および日射量に比例する,3満開から収穫までの日数に地域・年次間差は小さい等の事実が明らかにされた。
- 実験結果に基づいて果実肥大速度を数式化し,摘果期(満開33日後)から収穫期までの「幸水」の果実肥大の日々の変動を,日射量から予測するモデル(表1及び表2)を開発した。
- 上述のモデルを,1991年(平年),1993年(冷夏),1994年(高温多照年)における圃場での栽培試験に当てはめ異常気象年でのモデルの有効性を確認した(図1)。また各地(茨城県,秋田県,富山県,佐賀県)における過去の栽培試験結果に対する適合性を検討し,モデルが全国で使用できることを明らかにした(図2)。
成果の活用面・留意点
- このモデルでは,面積あたりの着果量を11果/m2を基準としている。着果量などの栽培法が大きく異なる地域ではknの値を調整する必要がある。
- 栽培現場では実際に,冷夏など肥大不良が想定されると,途中で着果数を減らすなどの措置が取られる。その場合,直感的でなく,モデルを判断材料として使用できる。また施設栽培など,普通と大きく異なる栽培条件での,収穫果実サイズの推定にもモデルは有用である。将来的にはモデルと農業情報システムとの結合による予測が期待される。
具体的データ


その他の特記事項
- 研究課題名:果樹の果実肥大モデルの開発
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成7年度(昭和63年~平成7年)
- 発表論文等:
ニホンナシの果実生長と日射量の関係のモデル化,農業気象,48,1993.
ニホンナシの果実生育と気温の関係について,農業気象,51,1995.