土壌小動物による昆虫病原糸状菌の摂食

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要約

昆虫病原糸状菌のフスマペレット培養物を土面施用すると,土壌中に生息するトビムシ類,ダニ類及び線虫類が培養物に寄生した。これらの土壌微小動物は培養物上で増殖し,それを食物として摂食することにより菌の効果を低減させた。

  • 担当:果樹試験場・保護部・天敵微生物研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:保護
  • 対象:虫害
  • 分類:研究

背景・ねらい

果樹の主要害虫であるモモシンクイガやクリシギゾウムシなどの土壌中で越冬する害虫を昆虫病原糸状菌を利用して防除する場合,菌を土壌に処理するのが最も効果的である。しかし,菌を土壌に処理すると菌は漸減する。この減少要因として,紫外線や雨などの物理的な影響や土壌中に生息する生物の影響などが考えられる。物理的な影響については報告があるが,生物的影響すなわち拮抗作用については昆虫病原糸状菌に関して研究例がほとんどない。本研究では土壌中に生息する小動物が菌に及ぼす影響を明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 採集土壌表面に昆虫病原糸状菌の代表的な4種のフスマペレット培養物を静置すると,土壌中に生息するトビムシ類及びダニ類が培養菌に寄生した。特にダニ類の寄生数は非常に多く培養菌上で繁殖していると考えられた。また培養菌の表面の分生子は時間がたつにつれてなくなった。これは特にMetarhizium anisopliae及びPaecilomyces fumosoroseusにおいて顕著であった(表1)。
  • 野外の土壌にフスマペレット培養物を処理した。7日後に採集された培養物には分生子が付着しており処理した直後の状態とほとんどかわりなかった。培養物からはトビムシ類,ダニ類,線虫類が検出されたが全体にトビムシ類及び線虫類が多くダニ類は少なかった。処理14日後Beauveria bassianaを除いて培養物は分生子がない状態であった。採集した培養物からは線虫類及びトビムシ類が多数検出されたが,ダニ類は少なかった(表2)。
  • Tullgren装置を用いて土壌中に生息するトビムシ類及びダニ類の生息密度の推移を調査した。菌を処理する直前の生息密度がそれぞれ1,000~13,000,500~17,000頭/m2・深さ5cmと推定された土壌に,4種の昆虫病原糸状菌のフスマペレット培養物を処理すると,1カ月後それらの生息密度はそれぞれ2,000~36,000,3,200~35,000となり,どの試験区とも増加した。菌処理区のトビムシ類及びダニ類の増加比率はそれぞれ平均2.9倍,約3.6倍であったのに対して,菌を処理しない区では増加率は低くそれぞれ約1.7倍,1.2倍であった。この傾向は処理2カ月後においても同様であった。菌無処理区の生息密度の推移を季節的な消長と考えて比較すると,菌処理区の生息密度の推移は季節的な消長ではなく,これら小動物が菌に反応を示した結果であると考えられる(表3)。

成果の活用面・留意点

昆虫病原糸状菌の種や菌株の違いによって菌胞子数の減少の度合いが違うことから,今後この点についても考慮にいれて有用菌株の選抜が必要である。さらに土壌中に生息する微生物の拮抗作用についても検討が必要である。

具体的データ

表1.採集した土壌に4週間静置した培養物から検出された土壌小動物の固体数及び分生子着生の有無

 

表2.圃場の土壌に処理したフスマ培養物から検出された土壌小動物及び分生子着生の有無

 

表3.培養菌土壌処理による土壌小動物の生息密度の変化

 

その他の特記事項

  • 研究課題名:モモシンクイガに対する昆虫病原糸状菌の利用法の検討
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成3年~6年)
  • 発表論文等:土壌中に施用された昆虫病原糸状菌に対する拮抗作用,応動昆講演要旨38,1994.